第32話

「お腹いっぱい! やっぱり人に作ってもらうご飯ていいね! ごちそうさまでした」


「正確には狼男にだけどな」



 食器を流しに置く実に言うと「そうだった」とケラケラ笑いながらソファーに向かい寝転がった。


 俺も席を立ち、残りの食器を流しに持って洗い物を片づける。


 二人分の食器など直ぐに洗い終わり、手を拭いて振りかえるが急に問題にぶち当たる。


――どうしよう


 することが無くなると、どこに座っていいのかも所存がなく困惑する。


 部屋に女といて距離など考えたことがなかったからだ。大概、ゼロ距離でよかった。実に関しては人の姿で近づいたら嫌がるだろう。


 かといって、獣人に姿を変えて俺から近づくのはなんか違うしな。



「なにしてんの? こっち来て座れば?」


「このままでいいのか?」


「お好きにどうぞ」



 突っ立ている俺を不思議そうに見て、ソファーから起き上がると座る場所をあけてくれる。


 今まで経験したことのない緊張をしながらソファーに座り、テレビをつけるが隣に座る実が気になってしょうがない。


 肘かけと背もたれの角に膝を折りたたんで寄り掛かる姿で本を読んでいる。



「なに読んでるんだ?」


「本」



 それは見れば分かる。愛想が無いのは通常のことなのか、俺が人の姿だからなのか分からない。


 眉間に皺を寄せながら実を観察していると、視線に気づいたのか本から顔を上げて嫌そうに俺を見る。

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