第30話

文句を言おうとしていた『狼男の飼い方』なるノートをまた開いて、何かを書き込んでいた。


 もう元気そうだし、注意するなら今しかない。



「それ、誰かの目に留まったら困るし俺は実に飼われた覚えもない!」



 鋭い眼差しで睨みつけると、臆することなく俺の目を見つめ返してくる。


 余り見つめられると、こっちの方が戸惑ってしまう。俺は耐え切れずに目を逸らす。



「銀は怒ると瞳が金色になるんだね。面白い」



 クスクス笑いながらまたノートに綴る。自分でも知らなかったことを指摘され驚いたが、悟られないように無表情をきめこんだ。



「なんでもいいからそのノートは燃やして処分するからな!」


「なんで? なにかあった時、困るじゃない。それに今みたいに銀自信が知らない発見もあるかもよ?」



 意地悪そうに口の端を上げて言われ、ぐっと言葉に詰まる。よく観察していて侮れない。


 今、辞めさせないとあのノートはどんどん危険なものになっていく。取り上げておかないと大変だ。



「とにかく、やめろ!」



 書いていたノートを取り上げると、実が取り返そうと飛びついてくるが、俺が手を上げてしまうと身長差でどう頑張っても実の手は届かない。


 そのまま実の手の届かない棚の上にノートを乗せた。



「返してよ!」


「後で俺が処分しとく」



 言っても聞かないなら自分で手を下した方が早い。実は口元を尖らせ、ソファーにふて寝した。



「それより今日の食材買にいかないのか?」


「行かない。もう面倒くさい」



 俺が行ってくるから金をくれとは、言いづらいし言いたくない。


ーー材料がないわけじゃないしいいか。


 溜息を吐いてテーブルの椅子に腰かけ、残っていたビーフジャーキーを齧った。

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