第29話

生きる為に必要な知識を仕入れるのに必死のなか、楽しい時間でもあった。


 色々なことを覚えれば、同じ女に何回も会うなんて危険も回避できるまでになったし、何より体力を使うフェロモンで魅了する技を酷使しなくてよくなる。



「まぁ、好きな方かな」


「案外、勉強家なのね……それよりモフモフさせて」



 俯きさっきまでの強気な態度は感じられないが、落ち込んでいるのだろうと俺は仕方なく上着を脱ぎ獣人の姿になる。



「これでいいか?」



 実はコクンと頷き静かに俺に抱きついた。しばらくそのままでいると、実が呟くように話しだす。



「さっきはゴメン。銀が殴られることなかったのに」


「人間に殴られたくらいじゃ、痣にもならない」


「頑丈なんだね。それじゃ、どうしたら怪我するの?」



 さらりと、とんでもないことを聞いてくる。わざわざ弱点を他人に曝す奴がどこにいるっていうんだ。


――いったい俺をどうしたいんだ?


 まだ、実について知っていることが少なすぎる。どっかの研究員なんて線も捨てきれない。


 フラれて落ち込んでいようと、気を許すのは危険だと思いなおし姿を人間に戻す。



「どうしたの?」


「内緒!」



 不満げに体を離して俺を見る実を冷たくあしらうと、興味をなくしたように向きを変え椅子に座る。

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