第21話
誰とでもそつなくこなしてきた俺が、一体全体どうしたというのだろう。
正体を知られて、いつもと勝手が違うからか?
苛々するなんて俺らしくない。そもそも自分の感情をあんな風に相手にぶつけるなんてはじめてな気がする。
「気が緩んでるのか?」
ポケットに手を突っ込んで溜息をつく。人通りも多くなり駅が近くなってきた。
人間の世界で正体を隠して生きていくのは生半可なことではない。
日常も燃費の悪い俺の体は、腹が減って体力が落ちると姿が変わってしまう。
満月が近づけばさらに危険が増す。感情の高ぶりから人の姿を保つのが難しくなる。気の休まる時がないのだ。
「気を引き締めないとな……」
寒空に白い息を吐いて背筋を伸ばす。駅にある大きなコインロッカーの一番上にある扉横に小銭を入れて荷物を取り出す。
アウトドア用の大きめのリュックを背負い来た道を戻る。
いつだって出て行ける場所なのだから、深刻に考えてもしょうがない。
「正体知られてるし、なるようになるか……」
冬の間だけでも、取り敢えずの居場所を確保したのだ。姿を気にしないでいい場所。
少しだけ気が休まるかもしれない。
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