第20話

「洗ってあるから綺麗だよ」



 そこじゃない。謝るわけでもなく早く着ろと言わんばかりに不思議そうに見ている。


 さすがにイラッとしてボストンバックを開けながら皮肉交じりに言う。



「どうも。綺麗なゴミだね」


「あっ、言い方悪かった。ごめん」



 素直に謝られると俺が細かいことを気にする小さい男の様でそれはそれで気分が悪い。


 何も言わずボストンバックからジーパンとパーカーを選んで出すと、実から溜息が聞こえる。


 ソファーに寝転がって口を尖らせて俺の様子を見ている。



「狼男って意外と繊細なんだ? 面倒くさっ……」


「言い方が悪いからだろ!?」



 こんな物言いをする女に会ったことがない。思えばまともに会話らしいことをした覚えもないけど。


 それにしたって、出会って間もないのに遠慮ってもんがない。やっぱり同居なんて軽はずみに決めすぎたかもしれない。


 溜息をつきながら着替えを済ませて立ち上がると、ソファーに寝転んで本を読み始めていた実が顔を上げる。



「元彼より似合ってる」


「そりゃどうも! 行ってくる」


「昼は良いけど、夕食までには帰ってきてよ。食材は買っとくから。そうだ! これ、鍵。いってらっしゃい」



 もう興味が失せたように鍵を投げ渡すと、実はもう本を見ている。


 俺は受け取った鍵と携帯、財布をポケットに入れて部屋を後にした。

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