第19話

「なんか香水つけてる?」


「香水? 何もつけてないよ。香水嫌いだもん」


「なぁ、これも条件に含まれるの?」


「モフモフ癒しは家事に含まれます」



 癒しも家事って無茶なこと言ってないか? 体力的にはただ実が抱きついているだけで問題ない。


 ただ、この甘い香りだ。今まで会った女からは嗅いだことのない匂い。不快ではないけど――


 俺は実をそのままに人の姿に戻る。クラクラする感覚がどうしても危険だと本能が言うのだから仕方ない。



「ちょっと着替えとか取りに行ってくる」



 実は人の姿になると興味を無くしたように体を引いて首を傾げる。



「家もないのにどこに着替えを置いてるの?」


「コインロッカー」


「あぁ、それで行くの?」



 スウェット姿の俺を指さして言う。洗濯機に入れられていた服に着替えて行くつもりだったが、実はリビングから「ちょっと待ってて」と寝室に入っていき、大きなボストンバックを引きずるように持ってリビングに戻ってきた。



「これ、好きなの着ていいよ。サイズも大丈夫そうでしょ?」


「これって……」


「元彼のだよ。ゴミだから」



 予想はしていた。元彼のは良いとしても、もう少し言い方を考えて欲しい。


――俺にゴミを着ろってのか?


 手を付けない俺の様子に、やっと自分の発言が悪かったことに気付いたらしい。

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