第10話

「これでいいか?」


「モフモフさせて!」


「はっ??」



 大きな耳で声は聞こえていたが、内容が頭に入ってこない。動揺して棒立ちになる俺に実が飛びついてきた。


 実が飛びつても倒れることはないが突然のことに驚き、体が固まる。


 俺の胸毛のあたりに顔をうずめ、頬を赤く染めて幸せそうな表情。


 振り払うのは容易いが、この爪のある大きな手じゃ実を傷つけてしまいそうで、どうしていいか分からない。



「あったかい……モフモフ気持ちいい」



 甘い香りが実からしてきて、クラクラする。なんだか、マズイ気がして人間の姿に戻る。


 毛から人肌に変わると実は直ぐに離れて不服そうな顔を見せた。



「か、買い物いかないと……」



 顔を引きつらせ上着の前を閉めると逃げるように外へ出た。

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