第7話

人の姿に戻った俺を、目をキラキラさせて見ている。


――本当に変な女。



「私は桃屋 実[モモヤ ミノリ]。あなたの名前は?」


「名前はない。その時に会った奴が勝手に名前を付けて呼ぶから……」



 肉を食うために会う女達は一時の逢瀬の相手に幻想を抱いて勝手に名前を付けて呼ぶ。


 根無し草の俺には別に名前は重要ではないし、肉を食えればそれでいい。



「それじゃ、彼女や住んでる場所はある?」


「特定の彼女はいない。住む場所も決まってない」


「あなた、家事は出来る?」



 意味不明な尋問に怪訝な顔を見せるが、実は目を輝かせて答えを待っている。


 テーブルに置いた珈琲を一口飲んでから別に困るようなことでもないので正直に答えた。



「生活に困らない程度には出来る」


「合格! 住むところ無いなら、ここに来ない?」


「はぁ? でも、家賃とか払える金は持ってない」



 何を企んでいるんだ? 目的が見えない。それに、俺の正体を知って怖くないのだろうか。


 戸惑う俺の姿に実はクスリと笑うと言葉をつづけた。

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