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第2話

十階建てマンションのエレベーターにのり三階で降りる。


 三〇三号室のドア鍵を開けると電気を付けながら俺を玄関に残し、さっさと部屋に入っていく。


 玄関のドアを閉めたものの、勝手に上がってよいのか躊躇っているとマフラーを外しながら女が俺のほうを見る。



「なにしてるの? 上がって」


「お邪魔します……」



 靴を脱いで女がいる部屋に向かう。一人暮らしのようで他の人間の匂いはしない。


 女性と言うには幼い容姿。一人暮らしをしているし、成人はしているのだろうか。


 部屋の入り口でぼうっと立っている俺に女は首を傾げて笑う。



「緊張してるの? 襲ったりしないから、こっち座って」



 別に緊張なんてしてない。女と部屋に入るなんて日常茶飯事。ただ、目的が違うというか――


 この際なんでもいい。この空腹さえ満たされれば。


 ピーっと言うレンジの音がし、女がラップを外して俺の前に湯気の立つ皿を置いた。



「昨日の残りで悪いけど、お腹空いてるみたいだから先にどうぞ」


 皿には肉の塊が肉汁に浸っている不格好なハンバーグ。空腹の俺に見た目は関係ない。置かれた箸をぶっさして齧り付く。



「お米も食べる?」


「ひゃべる!」



 口いっぱいにハンバーグを頬張りながら答えると、炊飯器から炊き立ての米をどんぶりによそってくれた。


 美味い。見た目はあれだが手料理なんて久々だ。すきっ腹ならなんだっていいんだけど。


 女は向かいの椅子に座ることなく、冷蔵庫からお惣菜やらんなんやらを出してテーブルに並べてくれる。インスタントだが、味噌汁も出してくれた。


――幸せだ。


 テーブルに並べられた食事を全部平らげ、女の分であろうご飯もすべて食べつくした俺はお腹が満たされ眠くなる。



「お腹いっぱい……眠い……」


「今度は眠くなったの? 口の周り拭いたらソファー貸したげる」



 あきれたようにティッシュの箱を差し出されたティッシュで口周りを拭くと、続きになっている部屋に置かれたソファーに倒れこんだ。



「おっきな子供ね……」



 背中に女のつぶやきが聞こえたが、お腹がいっぱいで眠くて目を開けてられない。


――これも全部、満月のせいだ。


 俺はそのまま知らない女の部屋で眠りについた。

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