満月

第1話

お腹が空いた。肉が食いたい。


 せっかくの満月を黒い雲が邪魔しているせいで、寒い夜をより一層引き立たせた。


 公園のベンチに横たわり膝を抱えてうずくまり、最後の時を振りかえる。


 今日の女はいつもよりちょろくて、すぐに肉にありつけるはずだった。


――あの女、頑張った俺をポイッと置いて帰りやがった。



「なにが悪かったんだ? あぁ……お腹空いた……」



 寒いし目も霞んできた。いよいよこの世とおさらばするのか――


 白い息を吐いて寒さにさらに体を縮こませて目を閉じた。



「大丈夫? こんな寒いところで眠ると、朝には凍死してるわよ」



 声にうっすらと目を開けると、しゃがみこんで俺の顔をのぞきこむ女の姿。俺は最後の力を絞り出すように懇願した。



「……肉……お腹空いて……」


「肉? まさかお腹空いて倒れてるの?」



 くるっとした丸い目をさらに丸くして、手に持っていたビニール袋を漁り、何かを取り出し俺の口元に差し出した。


 匂いを嗅いで口を開けると、口の中に突っ込まれる。もごもごと噛み砕いて飲み込む。


――魚肉ソーセージ。


 俺の求めている肉とは違ったが、贅沢を言っている余裕はない。


 一本食べ終わると女はクスリと笑って「もっと食べる?」と聞くので、迷わず頷いた。


 二本目も食べさせてもらい三本目でやっと起き上がり自分で食べると、俺のお腹がまだまだ足りないと盛大に鳴る。


 隣に座った女がクスクス笑いながら、思いついたような顔をして立ち上がる。



「行き倒れさん、私のマンションすぐそこなの。夜ご飯食べさせてあげる」



 またしても俺は迷うことなく頷き、女についていく。


――今宵は満月。


 狼男の俺にとっては特別な日なのだ。

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