第12話

「力になりたいが、酒が丁度切れちゃったんだよね」



「そうか。それならば俺が酒を調達してこよう。狸の酒なら問題ないだろう?」



「あぁ。できるだけ多めに頼むよ」




 乾は眠っている烏を右京の手に預けると、俺の頭をまた一な撫でする。




「お前もこんな時期に災難だったな。悪いが俺が戻るまで烏のことを頼むぞ」




 力強く頷くと乾は大きな翼を広げて風とともに姿を消した。



――格好いいな乾さん! それに比べ俺の師匠ときたら



 視線を向けると右京はいつも寝転んで酒を飲んでいるゴザの上に眠っている烏を寝かせ、隣に胡座をかいた。




「こいつのこと早く治してやれよ!」



「酒がない」




 悪びれるでなく欠伸をしながら呑気に読みかけの古そうな本を手に取り読みはじめた。



 その様子に腹が立ち体を膨らませ右京が手にしている古い本を羽根で弾いて怒鳴る。




「仲間がこんな時ぐらい意地悪するなよ! 酒なんていつでも飲めるじゃないか!」



「煩い。一人で逃げ帰ってこんな仲間のことを言い忘れて何も出来ない奴が随分と偉そうだね」




 痛いところを突かれグッと言葉に詰まる。何も出来ないくせに文句をいうのは情けなくて格好悪いなんてことは身に染みいる。



 だがその声を上げることが大切なことを教えたのは右京だし、目の前に仲間が倒れているんだ。

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