第9話

「そのタイム表間違ってない? 俺、兼よりぜってー速いから!」



 見事に猫を被ってなんの躊躇いもなく文句を言う村田君を話していた私達三人は溜息を吐いて呆れた様子で見守る。


――自分に対する自信がすごいよね。


 軽く憧れるレベルだと笑ってしまうと、村田君に睨まれ小声で言われる。



「なに見てんだよブス!」


「相変わらず性格悪。小さいくせに態度は大きいよね」



 息を吐くように村田君から言われる嫌味や悪口に慣れっこになってしまい、このぐらいは耐性が出来てしまって驚きもなく苦笑いで済ませてしまうが、雪絵は面白がって皮肉を言う。



「なんだとこのメガネブス! おま……」



 雪絵に更なる文句を吐き散らかす前に兼君が村田君の頭を叩いて止めに入ると、村田君は殴られた頭を押さえてキッと兼君を睨みつける。



「大志。女の子に意地悪しちゃ駄目だって言ってるだろう?」


「うっ、うるさい! 本当のこと言ってるだけだ」


「大志!」



 村田君に強めに名前を呼ばれると母親に怒られた子供のようにビクリと肩を上げ、不貞腐れた様子で腕を組んで横を向いてしまう。

 

 その村田君の様子を兼君は困った表情を浮かべて溜息を吐くと私達に向き直り頭を下げた。



「ごめんね。小陽ちゃん雪絵ちゃん」


「兼君が謝らなくても……もう慣れてるから気にしてないよ」



 代わりに謝る兼君の言葉のほうがなんだか申し訳なく感じていつまで経っても慣れない。


 雪絵と二人でいつもご苦労様と兼君を労っていると、いつの間にか席から消えた村田君が実行委員からタイム表を取り上げて困らせている。





「全く……」





 溜息を吐いて村田君を止めに行く兼君の背中を雪絵と二人、苦笑いで見送った。

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