第24話
「全部……全部、埋めよう」
持っていたシャベルを振り上げ、狂ったように笑っている璃子を止めた。
笑い声がやみ、璃子は目を見開いたまま糸が切れた人形のように崩れ落ちる。
「こ、幸平……やっと……」
「あぁ」
苦しそうに笑顔を向ける優司の頭を抱え上半身を起こす。優司の腹に刺さったままのナイフに手を掛け笑顔で囁く。
「優司と一緒だ」
ナイフを優司の腹から抜き取ると一瞬痛みに歪んだ顔を見せた。黒く赤い花がさらに大きく開花する。
優司の顔が青から白へ、花が開ききり急速に枯れていく。
腕の中で冷たくなっていく優司が優しく笑い最後に涙の雫を俺に落とした。
俺は優司をそっと地面に置くと、シャベルを取り穴に入る。
二人を埋めるのには狭い。深さは十分なのでシャベルで側面を削って横に穴を広げる。
恐怖や体の疲労感すらもまるで感じない。
「俺はまだ地獄にはいかない……」
生き残ったことへの優越感なのか意識せずとも顔がにやけてしまう。
土が柔らかいのか俺の力が増したのか掘り進むペースは早く、あっという間に二人を埋めるのに十分な広さになった。
シャベルを投げ出し、穴から這い上がると倒れている二人を眺めてまた顔がにやける。
「俺が抱いていた女性への理想を打ち砕く、女の醜さを見せてくれて有難う」
目を見開いたまま絶命している璃子にお礼を言って腕を掴み、穴のそばまで引きずっていく。
穴の淵で手を離し足で蹴り入れる。暗い穴の底に土埃が上がった。
俺は倒れている優司の側に跪き、両手で冷たくなった頬を包み、流れた涙の後を親指で拭う。
「なんで泣くんだよ」
生まれた時から側に居て、愛しくも憎く思っていた優司。今は誰よりも優司のことが分かる。
「必要か必要じゃないか、優司と一緒になった今なら分かるよ」
優しく微笑み優司のズボンから鍵と携帯電話を回収する。
冷たくなった体を押して穴の底に落すと優司と璃子は重なり合うことなく横たわった。
俺はシャベルを手に持って立ち上がると、二人に土をかぶせていく。
徐々に二人の姿が見えなくなり、穴が埋まると何も無かったように静かだった。
「墓石はいらないよな?」
シャベルを置いて汚れたTシャツを脱いでボストンバックから新しいTシャツを出して着替える。
――残りの処理をすれば元通り。
優司の父親が家に帰宅する前に残っている物を回収して璃子を運んだスーツケースに詰め込んで海に沈めればいい。
「閃いた! 優司と璃子、夏の逃避行。あーでも優司のオジさんは、寂しがるかな? その時は一緒にしてあげればいいか」
自分の良案にまた笑いが込み上げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます