第19話

「あれ? 生きてたんだ」





 優司は少し驚いてズボンの後ろポケットを探り、ナイフを準備していた。



 璃子は虚ろな目で起き上がり、優司の手にしているナイフを目にすると血の付いた顔を引きつらせた。





「優司! なにする気だよ!? 璃子ちゃんの意識が戻ったんだから病院に連れて行こう」



「なんで? 苦労して穴掘ったのに……」





 ――なんで?



 俺が聞きたい。璃子が生きていたんだから、こんな馬鹿げた計画は終わりだ。





「痛い……優司なんで?」





 傷を負った頭を抑えながら、璃子は静かに優司に聞く。周りを気にしながら目を泳がせ酷く狼狽している。



 当然だろう。気がついたらこんな場所で頭に傷を負い、優しい声を掛けられることもなく、彼氏にナイフを向けられているのだ。





「優司もう終わりだよ。ナイフをしまえ」





 俺は優司の後ろからゆっくりと近づいて抱きしめるようにナイフを構える右手を捕まえる。



 暴れる様子は見せず素直に璃子に向けていたナイフを優司が下ろすと予想外のことが起きた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る