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第12話
玄関で差し出された靴下を履き、出されたスニーカーに足を入れ紐を締めた。
「ピッタリでしょ? それじゃ行こうか」
「あぁ……」
後ろに立たれ、ずっと喉元にナイフを当てられているようで言葉もうまく出てこない。
これから外に出ることに異様な緊張が俺を襲っていた。
優司はそんな俺の気持ちなど察することもなく璃子の入ったスーツケースを押して玄関のドアを開け、外に出て俺を呼ぶ。
「幸平! 早く、早く」
重い腰を上げてシャベルと着替え。それに璃子のバックを入れたボストンバックを肩に掛けて外に出た。
道に人の姿はなく、スーツケースを押すタイヤの音がやけに響いて聞こえる。
周りをキョロキョロと気にしながら大量の汗を流し、優司の少し後ろを歩く。
「不審者みたいだよ。目立つし捕まっちゃうよ?」
「わ、悪い」
どう考えたって死体を運んでいるのに、普段と変わらない優司がおかしい。だが、それは俺が事情を知っているからだ。
むしろ楽しそうでもある。俺は無意識にキョロキョロしないよう、意識をして優司の背中を見ることにした。
暑さで流れる汗と、冷たく背中を流れる冷や汗。優司だけが炎天下の中、やけに涼しげに見える。
血も涙もない殺人鬼は汗もかかない。
くだらないことばかりが頭に浮かぶ。でも、俺の知っている優司は泣き虫で優しくて、いつも俺の後を付いて来る奴だった。
いつから俺を追い越してこんなに変わってしまったんだろう。俺は子供の頃を思い出し、優司に話しかけた。
「なぁ、俺たちが作った秘密基地ってまだ残ってるのかな」
「まだ残ってるよ。僕と幸平の大切な思い出……やっぱり、璃子を埋める場所変えようか?」
「なっ、今更変更とか……それに、口に出すなよ!!」
さらりと言う優司に俺の心臓は飛び跳ねる。誰かに聞かれたらと思うと怖くてしかたない。
また意識が優司の押すスーツケースに向いてしまう。周囲に誰もいないか確認する。
「ハハッ! 幸平ビビリすぎ。誰か聞いたって、僕たちが今から死体を埋めに向かってるなんて思わないよ」
駄目だ。話しかけて気分を紛らわすはずが、危険を撒き散らす結果になった。
山まで無言で速やかに向かうのが得策だ。俺は苛立つように歩くペースを上げて優司を追い越す。
「そんなに急ぐと、汗かくよ」
軽口を叩く優司を無視して歩き続けると、スーツケースを押すタイヤの音が止まった。
何事かと振り返ると優司が虚ろな目で俺を見ている。
「そんなに急ぐと、スーツケース開いちゃうかも……」
このまま俺が無視し続けたら、スーツケースを自ら開けそうな雰囲気。
――脅迫。
従うしかなさそうだ。
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