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第9話
涙を拭い俺はまっすぐに優司を見る。防衛本能か、ただ俺も壊れただけなのか分からない。
倒れた璃子と俺にナイフ向けて動揺している優司を見て頷く。
「わかった。逃げないで協力するから、ナイフをしまって欲しい」
「本当? 良かった……僕も幸平のこと、傷つけたくなかったし」
優司がナイフを下に向けてホッとした表情で俺に微笑み掛ける。
高ぶった感情が涙と一緒に流れ出たのか、俺も少し落ち着きを取り戻していた。
「俺、捕まるのだけは絶対に嫌なんだ」
「わかってるよ! 僕も捕まるのは嫌だもん。大丈夫、絶対に見つからないから」
「それじゃ、優司が言ってる場所まで璃子ちゃんをどう運ぶつもりだ?」
協力するからには、絶対に捕まりたくない。こんな異常なことに巻き込まれて一生を棒にフルなんて嫌だ。
助かるには、璃子の死体を見つからないように埋める。後で行方不明で捜索が始まっても、俺は知らぬ存ぜぬを通す。
「どうしようか? おんぶでもして行く? そんなの考えてなかったよ」
「頭を怪我して血まみれの女を背負ってたら、埋める前に捕まる」
「それじゃどうする?幸平が考えてよ。得意でしょ」
ナイフをポケットにしまい、腕を組んで優司が考える振りをする。昔から面倒ごとは全部、俺に考えさせて目立つ優司だけが褒められるんだ。
今回は目立たなくていい、褒められなくていい。ただ優司がどうなっても俺が捕まらなければ。
俺は立ち上がると、優司の机にある椅子に座り自分を守る為に計画を考える。
「スーツケースあるか? あったら持ってきて。早くしないと死体って固まってくるはずだから。あと雑巾と漂白剤持ってきて部屋の血をどうにかしないと……」
優司は目を輝かせて「さすが幸平!」とスーツケースを取りに部屋を出て行った。
優司が部屋を出たのを確認し、璃子の様子を覗う。うつ伏せになっていて顔色は分からない。
机の角に、血痕が付いている。
ここに頭をぶつけたんだろうか?
だが、近づいて息を確かめようとは思えなかった。璃子に触れた時の優司の目を思い出すと、今度こそ刺されそうでこの場から動けない。
俺の頭には早く璃子を埋めて日常に戻ることしかもうないのだ。
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