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第8話
隣に座ったまま優司を見ていると、俺の肩に手をかけ優司が立ち上る。
フラフラと机に向かい引き出しから何かを取り出し振り返った。
「逃げるなら、幸平も同じだよ」
右手にはナイフを持っていた。俺は目を見開いて座ったまま後ずさりすると、倒れている璃子に当たって止まる。
それが気に障ったのか優司はナイフを持ったまま鬼の形相で向かってくる。俺の喉がひゅっと鳴った。
「……気安く触るな」
そう言って足で璃子を押しやる優司を見て嫉妬深い男だとはじめて知る。
付き合ってはすぐに別れる優司に理由を聞いたことがあった。 その時は相手が自分のことを好きになると飽きるのだと、羨ましいことを言っていたが――
実際は、異常なまでの優司の嫉妬が原因だったのかもしれない。
「なあ、今からでも間に合うから連絡しよう。本当に死んでるか分からないだろう?」
「何度も言ってるだろう……璃子は死んでる。大丈夫だよ、もう埋める場所は決めてあるんだ」
にっこりと笑って大丈夫だと話す優司には、もう俺の説得など耳に入らないようだ。
俺も璃子のように――
そう思うと一刻も早く璃子を病院にという考えは薄れていき、自分がどうやってこの状況から抜け出せるかしか考えられなくなる。
「じょ、冗談だろ?」
「冗談じゃないよ。埋める場所は僕と幸平がよく遊んだ場所」
今から遊びに行く計画でも立てるように楽しそうに説明する優司を見て、言い出せない感情がこみ上げる。
恐怖や怒り悲しみが混じり合ったような感情が目から溢れ出した。
「泣かないでよ幸平! ナイフ怖かった? 刺したりしないから」
なにが、こんなにも優司を変えてしまったんだろう。俺が泣いてるのは、ただナイフが怖いからじゃないことも分からない。
――優司は壊れている。
璃子を殺してしまったことよりも、涙を流す俺に慌てている優司の姿が妙に可笑しくて、知らずに俺は笑っていた。
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