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第7話

「お前……」



「捨てるんだよ」





 横を向くと頭から血を流した璃子がすぐ側にいる。死んでいるとはどうしても信じられない。



 自分の彼女なのにどうして、そんなに直ぐ死んだと諦めてしまうのだろうか俺には疑問だ。



 ただ、今の優司に何を言っても話が通じなそうだ。それに、怒らせたら、何をするかわからない。





「何言ってんだよ……なんで、こうなった? 璃子ちゃんと喧嘩したのか?」





 なるべく感情を抑えて話す。話をすれば、優司もきっと落ちつき正常な判断が出来るようになるはず。



 上に乗ったまま倒れた璃子を恨みがましく睨む優司に嫌な汗が出る。





「さっきも言ったじゃないか……幸平に色目なんか使うからだよ」



「そんなの、使われた覚えないぞ。お前の気のせいだよ」



「違う! 昨日、今度一緒に出かけようって誘ってただろ!」





 あんなの社交辞令だろ。どう思い出しても、色目など一度も向けられた覚えがない。



 気が動転してるせいだと願いたいが、この状況で俺だって余裕がある訳ではない。



 とにかく、馬乗りになる優司をどうにかして部屋を出よう。パニックにならないように、やるべき順序を頭に浮かべる。まずは病院に連絡するんだ。





「話を聞くから、とにかく降りてくれ。苦しい」



「ゴメン……」





 あっけなく上から降り隣でしょぼくれる優司を見て俺はゆっくりと上半身を起こして座る。



 俺は優司が落ち着いて正常な判断ができるようになったのだと思ったんだ。



 だが、その判断は誤ったもので、そのまま走って家を出るべきだった。

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