第6話
「とにかく連絡しろって!!」
「だから遅いって、璃子から離れてよ」
優司は俺が腕に抱いている璃子を乱雑に払うように床へ落とした。
ゴトリと床に落ちた璃子は人形のように微動だにしない。本当に死んでいるのか確かめようと、璃子に手を伸ばす。
「触らないで」
俺の腕を優司が掴んで止める。こんな状況にも関わらず、頑なに俺が璃子に触るのを拒む。
「お前、いい加減にしろよ! とにかく救急車……俺が連絡する」
「駄目だ! そうやって、逃げるつもりなんだ」
立ち上がった俺の脚に、子供のようにすがりつく優司に背筋が凍る。これが自分の知る幼馴染なのかと目を疑った。
でも、今は璃子を病院に運ぶのが先決だ。自分の携帯電話をGパンの後ろポケットから出そうと探りながら思い出す。
――部屋に置きっぱなしだ。
「優司、携帯電話かして。早く連絡しないと、手遅れになったら困るだろう?」
動揺している優司をこれ以上刺激しないように、優しく話しかけると、優司が俺を見る。
何も言わずに首を横に振る。もう、死んでいると思い込んでいるからだろうか?
「璃子ちゃんは、頭を打ってる。素人判断でどうこうできないし、病院に……」
「嫌だ! り、璃子が悪いんだ! 幸平に色目なんか使うから」
「何言って……このままにはしておけないだろう!? 早く、携帯かせよ!」
苛々が募っていく。俺は優司のズボンのポケットから見えている携帯電話を取ろうと身を屈めると、伸ばした腕を優司に取られ床に倒された。
優司が馬乗りになり鬼気迫る顔を近づけ、俺に言い聞かせるように囁く。
「駄目だって言ってるだろ……」
璃子を助けるのに救急車を呼ぶ以外、何があるって言うんだろうか。
俺は優司の目を見て気付く――
優司の頭に璃子を助けようなんて気はないのだと。
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