第64話

文句を言い合いながらも4人そろってリックの部屋に戻り、マティが時計を見ながらカリオに声を掛ける。


「カリオ先輩、授業もう少しで始まると思うんですけど大丈夫ですか?」


 事件に巻き込まれ、怪我をしたリックとマティは本日は一日休みを貰っていたので特に時間などは気にしていなかったのだが、カリオは平常時と変わらないはずだ。


「出席日数も足りているし午前中は自習ってことで問題ない。それよりも、本当に凄いなこれ……透明だが器に遮光魔術が掛けてあるのか?」


 リックの部屋に入るなり棚に並んでいる水栽培されているマンドラゴラを感嘆の声を上げて眺めている。リックはすでに薬を作ることに集中していて、カリオの声が耳に入っていない様子だった。その代わりと言わんばかりにマロンが得意げにマンドラゴラの入った器を持ってきて見せる。


「わぁ~可愛い! もしかして、これってマロンの形?」


「これはどうやって根の形状を変えたんだ?」


「可愛いでしょう? お水の中に僕の毛を入れると根っこが踊ってマロンになるんだ!」


「面白いな。それじゃ俺の髪の毛を入れたら俺の形になるのか?」


 マロンの形をしたマンドラゴラにカリオが自分の髪の毛を入れようとすると、マロンがその手を引っ掻いた。


「痛っ……なにか問題でもあるのか?」


「僕の形が変わっちゃうし、筋肉デブは可愛くないから駄目なの!」


「お前、ずっと俺のこと筋肉デブというがただの筋肉だ。ついでに名前はカリオだ」


 引っ掛かれた手の甲を擦りながら真面目に反論するカリオにマティが噴き出して笑っていると、調合が終わったリックがマンドラゴラを持ってマティの前に置く。


「ねぇ、マティの髪をここに入れてみてよ」


「私の? なんか怖いな……」


 それでも踊るマンドラゴラは少し見てみたいので、髪を一本抜いてマンドラゴラの入った水に浸けると、マロンが話していた通りにグニャグニャと踊るように形状を変えていく。


「おぉ、これは……人の形じゃないな」


「本当だ! 獣人には獣の特性だけが出るのかな?! 面白い結果がでたな」


 マンドラゴラの根は小さな鬣のあるライオンの姿に変わっていた。リックは興奮したように手帳にメモして目を輝かせている。


「自分で言うのもあれだけど、可愛いねこれ!」


 自分の分身のようで最初こそ気持ち悪い感じがしたが、変化した根を見ると不思議と愛着のようなものが湧く。嬉しそうにマンドラゴラを眺めているマティを見てカリオが思いついたように話す。


「これ、売れるんじゃないか? 根っこの形状が変わる部分だけを残してマンドラゴラの毒性を抜ければ」


「売るとかは考えてないけど……」


「これ、育ててれば花も咲くんでしょう? プレゼントとか嬉しいかも」


まったくの趣味で金儲けなど考えてなかったリックだが、マティの「嬉しい」の一言に考えてみようかと、手帳にメモをする。


「俺が卒業する前に改良終えてくれよ。マティが寂しくないように」


やる気になったリックにカリオが笑って頼むと、真顔で「キモイ」と呟きながら、マティの形に変わったマンドラゴラを大切そうに棚に戻す。


「まぁ、マンドラゴラのことは置いといて、薬が出来たから早く渡して終わりにしよう」


 ふと真面目な顔で二つの小瓶を見せるリックにカリオが頷いて立ち上がるとローランドの部屋に向かった。

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