第63話

「ほら、鳴いて許しを請え。それとも、もう一枚剥がす?」


「分かったからもう止めろ! アンアン! 悪かった!!」


 ゲドが泣きながら叫ぶと、リックはそれはそれは満足した顔でニッコリ笑い容赦なくゲドの尻尾からもう一枚鱗を剥がした。悲鳴を上げるゲドに近づきリックが睨みつけるとゲドが小さく悲鳴を上げる。


「いま、少し満足しただけで許したわけじゃないから」


 もう、どっちがいじめっ子だったのか分からない程に逆転したリックの悪魔のような微笑みに遠巻きに見ている生徒達も息を呑んでいる。


「それじゃ、もういいよ。材料も手に入ったし行こうマティ」


 剥がしたゲドの鱗をポケットにしまい食堂から何事もなかったように去っていくリックを呆然と見つめていたマティに、泣いているゲドの尻尾から手を放すようにカリオに声を掛けられて、やっと我に返る。


「ゴメン! 痛かったよね……」


「悪かったな。血は出てないし、しばらくすれば鱗は戻るから心配するな」


 リックへの嫌がらせ行為を知っているマティは複雑な気持ちで謝るが、カリオは泣いてるゲドの頭をガシガシと撫でて笑っていた。騒ぎが落ち着いてやっとゲドの取り巻き達がやって来たので、そのまま預けて二人はリックの後を追った。


「あいつ、いい性格してるな」


「意外と執念深いタイプ見たいですね。気を付けよ……」


 食堂を出るとクロノスの扉前にリックとマロンがケラケラ笑いながら何かを見ているのをマティが後ろから近付いて覗き込むと、ゲドがアンアン鳴いて謝った場面を録画したものがノートに映し出されていた。


「面白かった~僕も鱗剥がしてみたかった!」


 恐ろしいことを話す二人にカリオが溜息を吐いて頭を軽く叩く。


「仲良くしろとは言わないが、無駄になぶる行為は自分に戻ってくるぞ」


「分かってるよ! これでもう僕に絡んでくる奴は居なくなるだろうから、見せしめってやつだよ」


「あんな酷い見せしめ友達も出来なくなっちゃうわよ? いいの?」


 確かに悪意を持ってリックに近づく子がいなくなると同時に、善意を持って友達になりたい子も近付いてこないだろう。だが、指摘されてもリックは全く気にせずにマティとマロンの手を取りニッコリ微笑む。


「無駄な友達はいらない」


 マティは片手を額に当てて深い溜息を吐き、目の前で苦笑いを浮かべているカリオを見てリックに聞く。


「カリオ先輩も友達よね?」


「まぁ、友達でもいいけど……」


 気を利かせて聞いたのだが、思った答えではなく余計に気まずい空気を感じてマティが顔を引きつらせると、カリオはリックの頬を抓って引っ張った。


「本当にいい性格してるな!? ありがたく思え、仲良くしてやる」


「痛い……ふん、そっちこそ!」


 いつもマティの前では大人っぽく頼れる男に見えるカリオが、リックと一緒だと子供っぽく見えこっそり可愛いと思いながら笑っていると、リックが怪訝な顔をしながら早く行こうとマティの手を引きクロノスの扉を通ってリックの部屋に薬を完成させるために戻った。

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