第61話
「リックは学術院を辞めるか聞いた?」
「分かんないって。でも、マロンとはずっと一緒だって言ってくれたんだ」
「そりゃ、良かった。で、マロンは大丈夫なの? 門番をクビになってない?」
今回はマロンとリックの緊急用の鍵で助かったのだが、門番であるマロンが一人の生徒に固執しクロノスの扉以外を使って移動をするのは違反行為だ。それ以外のことを考えてもリックと二人でクロノスの扉を勝手に作ったり、問題児がすぎる。
「う~ん。クビなのかな?」
「ウソ?! 学術院に居られないじゃない。私からもソルベ先生にクビは撤回して欲しいってお願いに行くよ」
思わず声が大きくなってしまったマティにカリオとリックが振り返り「どうした?」とこちらに歩いてくる。
「マロンが門番をクビになるって……カリオ先輩からもソルベ先生にクビを撤回するようにお願いしてください!」
「落ち着けマティ! それなら……」
「それなら大丈夫だよ。マロンは門番じゃなくてアラステア王立学術院の生徒になるんだ」
カリオのジャケットの襟を両手で掴んで揺さぶるように訴えるマティを落ち着かせるように背中を擦るカリオの隣からリックが嬉しそうに答えた。その答えに落ち着きを取り戻したマティは脚で暖をとっているマロンを抱きかかえる。
「良かった! バカ猫だけど折角、友達になったのにお別れなんて寂しいもんね! 本当によっかた」
「僕はバカ猫じゃない! でも、良かったでしょ~?」
喜び合っている二人を横目に、リックが思い出したようにカリオの上着の裾を引っ張って声を掛ける。
「ローランドの容体はどう? うちの娼婦は微熱が続いてたんだけど……媚薬に混ぜらた物は少量だったから死ぬような毒ではないけど、男の方には強く副作用が出てるはず」
「なんだ、そこまで分かってるのか……熱はもうないらしいんだが、不能になったってことの方にショックを受けて寝込んでる感じだな」
「やっぱりね……約束だから薬は作るけど材料が足りないから取りに行かないとなんだ」
リックは何かを企んでいるような悪い顔をしてニヤリと笑って見せる。カリオが肩を竦めて、手伝いを買って出ると、じゃれあっているマロンに声を掛ける。
「マロン、材料を取りに行くからちょっといい?」
「竜の鱗を取りにいくの? 行く行く!」
物凄く嬉しそうなマロンをよそに、それを聞いたカリオとマティは顔を見合わせて慌てた様子でリックを止める。
「竜の鱗って今からダンジョンに行くつもり?簡単に取れるものじゃないよ?装備したってカリオ先輩と私の二人じゃ、流石にドラゴン討伐は無理だから!」
「知ってる。竜の鱗なんて貴重品を使う気なんてないよ。安心してマティ一人でも全然抑えられる相手だから」
リックとマロンは顔を合わせて笑っているが、マティとカリオは皆目見当もつかない様子でマロンが歪めた空間をリックの後ろからおとなしくついて行く。
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