第60話

「ここは……南棟の運動場か?」


「向こうに塔が見えるし……みたいですね」


こんなところに繋がるクロノスの扉があったのかと振り返ってクロノスの扉を見てギョッとする。


「これ、手作りじゃない!?」


「凄いな! 廃材で作ってあるのか」


「関心してる場合じゃないですよ! 違反ですよこれは」


 文句を言い合っていると長くの伸びきった雑草の茂みが揺れてマロンが飛び出してきた。


「げっ、なんで筋肉デブも一緒なの!? マティだけじゃない! 大変リック!!」


 挨拶をする間もなく、マロンは出てきた雑草の中に走って戻って行ってしまう。カリオはマロンが入っていた後を手をかざして揺れる雑草を見つめ、マロンの動きが止まったのを確認するとカリオの周囲から冷気が巻き起こる。周囲の空気がひんやりと冷えるとマロンが入っていた雑草が枯れて一本の道を作っていた。


「凄い……こんな使い方もあるんだ」


「関心してないで行くぞ。チビ共は他にいったい何を隠してるのか楽しみだな」


 笑いながら進んでいくカリオの後ろを深い溜息を吐いてマティが付いて行く。基本真面目なマティは校則違反のようものには係わらに様にしてきたが、カリオばかりかリックとマロンに係わってから違反のオンパレードだ。


「おぉ、ここもまた凄いことになってるな」


 先を歩いていたカリオが立ち止まり、マティもカリオの陰から見ると畑と温室のようなものが建っていることに驚愕する。


「招いてない奴までいる……マティ、おはよう。傷はどう?」


「おはようって、ここ使われていないとはいっても運動場でしょう? 勝手にこんなもの作って駄目じゃない!」


 長靴にジョウロを持ったリックに注意するが、まったく動じることもなくジョウロを地面に置く。


「植物を育てたいからって申請して許可は出てるから大丈夫だよ」


「そんなこと言って、部屋のマンドラゴラと一緒でこんな規模の栽培許可なんて出ないわよ!」


 容体を心配してリックを訪ねたことをすっかり忘れて怒鳴ると、呆れたように顔を横に振って溜息まで吐かれる。


「植物は生きてるから成長するんだよ。自ずと場所が広がって行くのは当然じゃないか」


「ハハッ、そりゃそうだ! でも、これは個人栽培で許可は絶対でないはずのマンドラゴラじゃないか?」


 いつの間にか畑にしゃがみこんで、植わっている植物を指差してカリオが意地悪そうに笑う。リックもそんなことでは全く動じず、しゃがみこんで自分よりも視線が低くなっているカリオを睨みつけて鼻で笑う。


「緊急処置です。水栽培しているマンドラゴラが弱ったので土に埋めて回復を図ってるんですよ。それに、誰も僕らが招かなければここに来る人なんていませんし」


「お前、マンドラゴラを水栽培してるのか?! 凄いな! 植物の回復なら……ここの土に肥料は混ざってるのか?」


「ハーブ用の肥料に成長促進補助の魔力を組んだ特別製のやつを使っているけど」


「それなら……」


 カリオは両手を地面につけ魔力を土に流し込んでいくと周囲にほんのり冷え、後ろで見ていたマティの脚に横にいたマロンが飛びつき「寒い!」と文句を言う。


「何したの?」


「弱った植物には成長促進は刺激が強すぎて枯れる。少しゆっくり栄養が回るように肥料を魔力で包んでやったんだよ」


「回復には時間を掛ける……ありがとう。僕は魔術は使えないから、土壌を変えるのは大変なんだ。そうか魔石を肥料に混ぜて……」


 何か思いついたのかリックはポケットから手帳をだしてメモを取り、頭脳派の二人は何故だか楽しそうに話している。


「ねぇ、マロン。リックはもう元気そうね……」


「骨も折れてなくて、打ち身だけって言われてた。部屋に帰ってからは自分で苦いお薬作って飲んでた」


 脚にしがみついているマロンに当初の訪問目的だったことを聞いて、ひとまず安心して微笑み、もう一つ小声で聞く。

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