誘惑

第58話

マティの部屋に戻り事情聴取で呼ばれるまで一人になるのも不安で、カリオを部屋に引き留めお茶をしながら話すことにしたのだ。部屋に二人きりな事にマティは少し緊張しながらお茶を一口飲んで質問する。


「カリオ先輩、事情聴取ってどんなこと聞かれるんですか?」


「サディスとの会話や何をされたのか……事情は分かっているからマティはそんなに答えることはないよ。それよりも、リックの方がどうなるかな」


「どういうことですか?」


「リックの薬を作る技術とバーレスク家の情報網が国の上層部にどう買われるか……バーレスク夫妻とも少し会って話したが、かなりの切れ者だったし、悪いことにはならないだろう」


 優雅にお茶を飲みながら、どうでもよさげにリックのことを話すカリオに少し腹が立ち睨むと、カリオはからかうように笑う。


「随分とリック・バーレスクのことを買ってるんだな。まさかマティがあんなガキに惚れ込むとは思わなかったな……」


「なっ、なんですかその言い方! もしかしてヤキモチですか?!」

 

 仕返しとばかりにカリオをからかうが、持っていたカップをテーブルに置きマティを見つめる。


「そうだと言ったらどうする?」


「えぇ……あぁ……」


 馬鹿だなとか軽くあしらわれるだろうと思っていたのに、見たこともない真面目なカリオの表情に返答も出来ず顔を真っ赤にして困っていると、部屋のドアがノックされた。


「おっ、呼びに来たか……」


 カリオが立ちあがりドアを開けて相手との会話が聞こえ、事情聴取のお呼びが掛かったのだと熱くなった顔を手で仰いで必死に冷ましているとドアを閉めカリオが戻って来てマティの様子に声を上げて笑う。


「マティはまだまだ可愛いな。近衛兵が事情聴取に来たってさ」


 一瞬でもカリオの言葉を間に受けてしまった事がとても悔しくてまた、顔が熱くなってくる。


(私はカリオ先輩の恋愛対象には入ってないって分かってるけど、分かってるけども本当に酷い!)


 またも油断して簡単に乙女心を弄ばれたことに深く反省し、恨みがまし視線をカリオに向けながら事情聴取に行くため二人で部屋を出た。

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