第57話

「身体を診てもらったら私が抱っこしてってあげようか?」


「おいマティ!! 甘やかすな! 診てもらわないでも、一人で動ける。面倒はマロンにみてもらえ」


 マティの腕を掴んで引き剥がすカリオをリックが不機嫌そうに睨みつけるが、傷だらけのマティを見ると自分の面倒をよりも休んでもらいたい気持ちが勝る。


(ここで僕が一緒に居たいなんて我儘言ったらガキっぽいし)


 カリオを睨むのを止めてカリオに腕を掴まれて赤い顔で戸惑っているマティに微笑む。


「僕なら一人で大丈夫。マティはゆっくり休んで傷を癒してよ」


「本当に? 我慢しなくていいんだよ?」


「明日、会いに来てマティの件もちゃんと片付けないといけないし……」


「そうだ、ローランドの薬!? もうほっといても良い気がするけど」


 カリオに視線を向けると苦笑いを浮かべて「まあな……」と答えに困っている様子にリックが溜息を吐く。


「マティとの約束だし、原因はうちの娼婦にあるので責任は果たしますよ」


「そうか……ローランドの処遇もどうなるか分からないがな。リックがそう言ってくれるなら礼を言うありがとう。それじゃ一旦マティを部屋まで送ろう。じゃあなリック、マロン」


 心配そうにしているマティの肩を抱いて医務室を一緒に出ていくのをギリギリと奥歯を噛みしめてリックが送り出す。


「リックはマティが好き?」


 目をキラキラさせ呼び出しに気を落としていたはずのマロンが興味津々といった様子で尋ねるが、リックは慌てる様子もなく答える。


「嫌いじゃないかな……強くてあの髪が面白いし」


「髪が面白いの? 僕も見たい!!」


サディスと対峙した際にマティの髪が広がってライオンの鬣のように勇ましくとても美しかったことを思い出してリックが頷いて笑みを見せると、マロンは尻尾を振って「楽しみ!」と、ただのうんこ女からだいぶマティへの好感度を上げていた。二人でいつもの和やかな雰囲気に浸っているたが、マロンが少しだけ寂しそうにリックに聞く。


「リックは家族と仲直りしたしお家に帰っちゃう?」


「まだわかんない。でも、マロンもソルベ先生と仲直りできたんじゃないの?」

「緊急事態で魔力制御を解除して、お外にも出れるようにしてもらわないとリックを助けられないって話したら、あの筋肉デブが無理やりソルベ兄のとこに僕を連れていって解除してもらったんだ。だから、呼び出しはまた罰の魔力制御とリックとの鍵のことで更に罰を加えるためだよ。ソルベ兄は怒って僕の話なんて聞いてくれないもん」


しょぼんとするマロンの手を取り、リックが「大丈夫!」と強く頷く。


「鍵のことは僕も同罪だし、ソルベ先生のところには一緒に行くよ。僕も今回のことで、自分が家族にやっかまれていると思い込んで、怖くて拒絶して逃げて何も知ろうとしなかったから家族の本当の気持ちなんてこれっぽっちも分からなくて……怖くても言葉を交わさないと駄目だよ」


「でも、怖いし……学術院を追い出されたら……」


「大丈夫! 僕も一緒に行くし、学術院を追い出されらたら僕の家で一緒に暮らせばいいよ」


「リックぅ~大好き!!」


 二人でしっかりと抱き合っていると、リックの容体を診に来た医師が医務室に入ってきて、二人の様子に少し驚いて苦笑いを見せる。マロンと離れベッドに横になったリックを医師が手をかざして丁寧に魔力で体の中を診察をし、打ち身以外は特に問題なく寮の部屋に戻って大丈夫との事で医師に御礼を言う間もなく、マロンが空間を歪めてリックを部屋に連れて行った。

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