真実
第56話
学術院の医務室に着くとカリオは丁寧にマティをベッドに座らせて頭を撫で、リックとマロンに手当をするように言いつけると、ソルベの応援要請を伝えに医務室から退室していった。残された三人はホッと息を吐き、ベッドの座らされたマティが慣れたように医務室の戸棚から消毒液などを取り出す。
「僕がやるからマティは座ってて!」
「あぁ、大丈夫よ。リックの方が体辛いでしょう? 先生が来たらちゃんと診てもらって」
「そうだよ! リックは重症だからベッドに寝てた方がいいの!」
マロンが無理やり、リックを引っ張ってマティが座っていたベッドに押し込む。強がって見せてはいるものの、身体を鍛えてもいないものがあんなに息が詰まるほど壁に叩きつけれたら骨ぐらい折れている可能性だってあり得る。
「ごめんねリック。守るって言ったのに、逆に助けてもらっちゃって……ありがとう」
「御礼なんて言わないでよ。僕の問題にマティは巻き込まれただけで、怪我までしてこっちこそゴメン」
二人でしょんぼりしているとマロンがリックの隣に寝転びゴロゴロと喉を鳴らして嬉しそうに尻尾を揺らす。
「無事だったからよかった! 僕も大活躍!」
「そうだね。マロンの鍵が無かったら僕もマティもどうなってたか……ありがとうマロン」
「私からも御礼を……ありがとうマロン」
寝っ転がっているマロンの頭を撫でて額にキスをするとマロンの尻尾が嬉しそうにハタハタと揺れる。隣にいるリックはなんだか気に入らなそうに顔を歪めてマティのキスが落とされたマロンの頭を乱暴に撫でていたリックが思い出したようにベッドから身を起す。
「僕も家に連絡をしなくちゃ!」
「それなら心配ない。マティ達が娼館を出た後すぐに近衛兵から近くの憲兵が警備にあたってる。本当ならそこでマティ達も保護して貰う予定だったんだが、入れ違いになってしまったようだ」
連絡を終えたカリオが医務室に戻ってきてリックを止めると、傷の手当てを自分で行うマティの元に近づき手から消毒液を取り上げた。溜息を吐きながら慣れた手つきでマティの傷の手当てを始める。
「まだ、色々片付いていないこともあるがサディス・デイビスは捕まり、もうバーレスクの高級娼館にデイビスの人間が出入りすることはないから安心していい」
「やっぱりサディスはなに危険な薬を扱っていたってことですか?」
「あぁ、極度の不眠症で色々な薬を試しているうちに、違法な薬にも手してしまったらしい」
「それにしたって、なんか動きが物凄く早かったんですけどカリオ先輩、何をしたんです?」
話しながらもマティの傷を丁寧に消毒し手当を終えたカリオは大きく頷いてから続きを話しはじめる。取り敢えず家族が保護されていることに安心してベッドに座ったまま、静かにしているリックに視線を向けてカリオが微笑む。
「相手の動きが思いの外、早かったのはバーレスク夫妻が、サディスについてすでに調べていて近々捕まえるのに動く準備をしていたんだよ。そこに俺たちも調べ始め、警戒していたサディス達に情報が漏れたようなんだ」
「えっ、父さんと母さんが?! なんで?そんな……」
「娼館は情報の宝庫と言うが、バーレスク家の情報網は殊更にすごいな。息子の為に国の上層部を動かしてデイビス家を調べ上げていて、たぶん爵位剥奪くらいはされるだろうな」
カリオが一人頷きながら感心したように話すのを心底驚いた様子で聞いているリックをマティが抱きしめた。
「みんなリックのことを心配してたんだよ。もう安心だね……良かった」
マティが目を潤ませて自分のことのように喜んでくれることにリックは「ありがとう」と呟いてマティに縋りついて泣いた。事情を知っているマロンも泣いているリックの背中に抱きついて「良かった~」と泣き出す。
「感動しているところ悪いが泣いてる場合じゃない。休んだら簡単な事情聴取が待ってるぞ。それとマロンはソルベ先生が話があるから部屋に帰って来いとのことだ」
「ソルベ兄から呼び出しなんて怖い。リックと一緒に事情聴取のほうがいい」
マロンが別の涙を浮かべながら耳を押さえてカタカタを振るえていた。リックがマティに抱きついたままコクリと頷き涙を拭う姿にカリオが呆れたように溜息を吐くが、マティは母性本能を刺激されたのかリックをまた抱きしめる。
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