第55話
「マロン苦しい……」
「怪我した? 早く帰ろう!」
だいぶ興奮しているマロンがリックの手を引いて何故か歩き出そうとするので、マティが慌てて止めて大切なことを聞く。
「ねぇ、今のクロノスの扉みたいに空間が繋がってたのよね? まさかと思うけど、もう繋げられないとかないよね?」
「外だから無理だよ。リックは僕が連れて帰るから大丈夫!!」
マロンが至極当然だろうとドヤ顔を見せるがマティは愕然としてしまう。サディスの脅威が去っても今の状況で別の追手がやってきたら、戦力外のマロンに動けないリックを守るなど到底できない。
「この……」
「この、馬鹿者!!」
マティが叫ぼうとした文句が後ろから聞こえ視線を向けると先ほどよりも大きく安定した空間から黒のハチワレ模様のケット・シーが毛を逆立てていた。
「あっ、ソルベ兄!わっ、わっ」
フラフラのリックを盾にアラステア王立学術院の門番の管理を務めているマロンの三番目の兄から身を隠す。ソルベの出てきた後にカリオが出て来てマティに駆け寄り抱きしめる。
「きゃっ、かり……カリオ先輩?!」
「怖かったろう? よく頑張ったな」
包み込まれるような安心感に完全に緊張の糸が切れ、そのままカリオの胸に顔を埋めると涙を流した。落ち着かせるようにカリオは「もう大丈夫だ」と何度も声を掛けて背中を擦る。
「ソルベ先生、近衛兵にも連絡済みなのでもう到着すると思います。後をお願いしても良いですか? 負傷者がいるので学術院の方に戻って手当をしたいのですが」
「分かったわかった。それじゃ誰でもいいから学術院の教師に応援要請とあいつの氷をどうにかしてけ、死ぬぞ」
「ありがとうございます」
ソルベに挨拶をするとカリオは、だいぶ落ち着きを取り戻し自分の胸でどうしようかと困っているマティに笑みを浮かべ、そのまま脚を取り横抱きにして歩き出す。
「カリオ先輩! 歩けます! 重いです!」
「ははっ! マティ一人くらい大丈夫。暴れると落ちるぞ」
降りようと暴れていたマティだったが、カリオが下ろす気が無いことに諦めて、両手で真っ赤になった顔を隠す。その様子をマロンの盾にされているリックがカリオを睨みつけて声を上げる。
「マティは僕が連れていく! 僕のために傷ついたんだから!」
カリオが目を丸くしてマティを抱きかかえたまま歩みを止めてリックを見て笑いだす。マティも吃驚して顔を隠している指の間からリックの様子を伺う。
「お前じゃマティを運べないだろう? お前のために傷ついたマティに運んでもらうつもりか?」
「違う! 違うけど……」
シャツの裾を握りしめて、悔しそうに俯くリックの様子にマティがいらぬ心配をしてカリオに声を掛ける。
「カリオ先輩、私は本当に自分で歩けるしリックのこと運んであげてください」
「鈍いなマティは……そんな屈辱をあいつが受け入れると思うか? まったく……ほら、チビ共も帰るぞ!」
首を傾げているマティに苦笑いを浮かべてリックとマロンに声を掛けると、忘れていたと歩き出した歩みをもう一度止めると指先に小さな氷の粒を作り、凍りついたサディスに飛ばす。
頭部の氷だけが砕け散るが、サディスに反応はなかった。カリオは気にする様子もなく学術院へ繋がる空間に向かい、その後ろをリックを支えながらその陰に隠れるように歩くマロンが続いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます