第54話

「くっ……あっ、熱っ!?」


集中力が切れダガーに集めた魔力が放散してしまい、手に熱が走りダガーを落としてしまう。


「へぇ、炎属性もあるんだ? 細切れより絞め殺すほうがいいか」


首を絞めるサディスの腕を両手で掴んで引き剥がそうとするが、壁に押さえつけられ上に持ち上げられ苦しさに、まともな抵抗が出来ない。


(苦しい……リックを助けなきゃ……)


意識が朦朧とする中、リックに以前聞かれた譲れないものを見つけた気がした。リックの方を見ると涙のせいかグニャグニャと歪んで間の抜けたマロンの声が聞こえる。。


「リック~大丈夫??」


「おいっ、早く退け!? マティを放せ糞野郎!!」


 サディスの腕を引き剥がそうとしていたマティの腕が力なく下に落ちた時、歪んだ空間から周囲に冷気が吹き出しビシビシと音を立てて地面に氷が走る。


「なっ、なんだ?! 冷たい! つめたいぃぃ……」


 予想だにしていない攻撃にサディスは避けることも出来ず足元から氷に覆われ、マティの首を絞めていた手の力が緩みマティが地面に落ち、その衝撃と戻った呼吸に咳き込み地面に手をついて顔を上げる。


「かっ、カリオ先輩?」


 上半身だけが宙に浮いたカリオの姿が見え驚いていると、その横をリックが苦笑いを浮かべてヨロヨロと歩いてくるのを見て、慌ててマティは立ち上がって駆け寄り抱きとめた。


「リック大丈夫?! 無理しないで」


「間に合って良かった。マティこそ……血だらけなのに頑丈だね」


 見た目からはマティの方が血だらけで重症に見えるが、日頃の鍛え方と元々の丈夫な身体だのおかげで、動けない程のダメージではない。それよりも、精神的ダメージのほうが大きく、リックを抱きしめながらマティの首を絞めていたままの姿で凍りついたサディスを見て震える。


(殺されるとこだった……)


 死に直面したことを思い出し身体が急に震えだし無言のまま震える腕でリックを抱きしめていると上半身だけが浮いた状態で見えていたカリオとマロンの争う声が聞こえる。


「お髭が凍りついた! リックが見えない退け、筋肉デブ」


「待て、お前が向こうに出たら扉が……まだ追手が……おいっ!」


 カリオが慌てたように怒鳴る横からマロンが飛び出して来たかと思うと、スッとカリオの姿が消えた。


「リック~無事!? 助けに来れなくてゴメンね」


 マティが抱きしめている上からリックに飛びつくようにマロンが抱きつき、マティの顔を尻尾が打つ。

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