第50話

日が落ち始めた帰り道をリックと話しながら歩いていると、背中に嫌な気配を感じたマティが立ち止まる。


「どうしたの?」


「このまま普通に歩いて。あの、角で曲がったらすぐ走る」


 立ち止まる前と変わらない様子でマティはリックの手を取り歩き出し、角を曲がった瞬間にリックを小脇に抱えて走り身を隠す。


「ちょっとマティ! 僕を抱えない……」


「しっ!! 誰かにつけられてる」


 細い路地の物陰から曲がった角を伺うと、急に姿が消えたマティとリックを探すように不自然に周囲を確認している黒づくめの怪しげな男の姿が見えた。二人の姿を見失ったことに顔を歪め舌打ちをし懐から携帯電話を取り出し連絡をしているようだ。踵を返した男の腰辺りには街中をぶらつくには不似合いな武器を装備している。


「気のせいじゃないの?」


「それなら良いんだけど、あの黒づくめの男は暗殺者だと思う。タイミング的に私のじゃなくリックのって考えるべきかな」


 黒づくめの男の姿が見えなくなり、マティが安堵の溜息を吐く隣でリックが複雑な表情を浮かべていた。


「デイビスの差し金だよね。狙いが僕ならマティは安全でしょう? 僕一人でどうにかするからマティは学術院に帰りなよ」


「なに馬鹿なこと言ってんの? リックの追手だとしても、一緒に居るのを見られてるんだからもう同じだよ。それより、連絡出来る手段がないか考えて!」


 リックの家に戻るのも学術院に帰るのも距離的に微妙な距離だ。学術院の授業で実戦形式で戦うことはあったが、相手はゴーレムなどで人間ではなくプロの暗殺者に一人ならまだしも、リックを守りながら逃げ切ることが出来るかマティの心中は穏やかではない。


「マティ一人なら追われたってどうにかなるでしょう?」


 周囲を注意深く見回しているマティにリックが自分のシャツの裾を握りしめながら精一杯の虚勢を張っていた。マティも緊張しリックを守り切れるか不安になっていたが、精一杯の笑顔を向けた。


「心外ね……私、意外と強いのよ。まぁ、それでも私がやられそうになったり、逃げろって言ったら直ぐに走て逃げること。身の安全が確保できたらカリオ・ゼルビーニって人に連絡して。信用できる人だから」


「でも、生存確率で考えたらマティが僕を置いて助けを呼ぶ方が……」


「くどい!! それより、連絡手段は考えた? リックはなにか持ってない?」


 グズグズと一人で逃げろというリックを黙らせて、いまの状況を知らせると共に知る必要がある。殺しに来ているのか攫うのが目的なのかで対応も変わってくる。策を巡らせているマティをジッと見つめて守られる決心をしたリックが自分の鞄の中身を確認する。

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