第48話

「ジュディ心配しなくても、借金返済後もここに居てくれて構わない」


「このまま居させてもらっても、年嵩の娼婦なんてお荷物になるだけ……私にも女としてのプライドがあるし……どちらにしてもここに留まることは出来ないわよ。牢屋に無事に入るか死ぬかのどっちかだろうし」


 薬を作ることに許可があったとしても、麻薬や毒物を作ることは罪に問われる。意図しない薬だったとしても被害者が出ていて、それも相手は貴族の前に糞が付くほどの厄介な相手が被害者とくれば憲兵に引き渡しすんなりと牢屋に入れてもらった方が命の保証はあるかもしれない。入り口で佇んでいたステムが覚悟を決めたジュディの元に顔を真っ赤にしながら近付き手を取る。


「娼婦としてじゃなく、ここに残って欲しいと思ってる!」


 ジュディは目を丸くして赤い顔のステムを見つめて、少しすると困ったような笑顔を見せて握られた手をゆっくりと外して握り返す。


「ごめんねステムこんなことに巻き込んで……そんな言葉を貰えるとは思ってなかったから、凄く嬉しいありがとう」


「ジュディ僕は本気でそう思ってる。父親やミリーにもなんとか許してもらえるようにするから……」


「駄目よ。これ以上デイビス家に目を付けられたら商売にならないでしょう?」


 恋愛経験に乏しいマティにも断られてショックを受けているステムがジュディに特別な思いを持っているのが分かった。なんとか丸く収めたいが被害にあったミリーとバーレスク家の対応次第で牢屋行きはどうにかなっても、ローランドが真実を知ったら穏便に済まそうなどとはならないだろう。


(やっぱりデイビス家をどうにかしないと悪い連鎖は終わらないか)


 取り敢えず、早く学術院に帰って毒混入の犯人が分かったことをカリオに伝えなくてはと気まずい空気を破る。


「ちなみにマンドラゴラを加えると良いと誰から聞いたんですか?」


「サディスからよ。調合はしてないみたいだけど薬の材料についてはものすごく詳しくて、よく色々な薬草が手に入ったのを嬉しそうに話してたわ」


「サディスはなにか病気を患っているんですか?」


「病気……極度の不眠症なんだって言ってたわ。だから、色々な眠れる薬を試していたみたい。最近はローランドしか顔を見せてないからどうしているのか分からないけど……」


(サディスを調べれば何かしらの怪しい薬が出てきそう)


 取り敢えず、カリオからの件は毒混入の犯人も分かりほぼ解決したと言えるだろう。マティ自身が解決したい問題は、一緒に片付けるにはまだ足りない。兎にも角にも情報収集に動いてもらっているカリオに早く伝えて、また策を練る必要がある。


「あの、ジュディさんの所在に関してもう少し待ってもらえませんか? デイビス家のことで少しこっちも動いているので」


「それは心配しないでいいよ。僕が父に話してどうにかするからジュディも安心して」


 落ち込んでいたステムが力強くジュディとマティに頷いて自分の胸を叩いて咳き込んだのを見て、お願いしますと頭を下げてリックがいるだろう部屋に急いで向かった。

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