告白

第45話

少しドアの開いたジュディの部屋からリックの怒鳴り声が廊下に漏れ聞こえている。


(だいぶ興奮してるわね……)


 どんなに大人ぶってもリックは13歳の少年で、冷静でいろと言う方が無理なことだ。ましてや、リックが大切に思っている人物が自分の媚薬に混ぜ物をしたのだとしたら裏切られたと思っても仕方がない。


「失礼します」


 開いているドアに一応、ノックをして声を掛けて大きく開くとリックがジュディさんの服を掴んみ揺さぶって怒鳴っていた。


「ちょっと、リック!? 落ち着いて!」


 慌ててリックの両脇を掴んで持ち上げて話すと、足をバタバタさせて暴れるので「こらっ!」と制止の声を上げるとやっと我に返ったように持ち上げているリックの体から力が抜けた。おとなしくなったので床にそっと下ろすとマティの方を振り返り抱きついてきた。


「なに?! どうしたのよ?」


 屈んでリックの顔を覗き込むと涙目になっているのが分かり、取り敢えず頭を撫でて宥めているとジュディが代わりに答える。


「部屋に飛び込んで来るなり、なんで毒を入れたんだ~って騒がれても何のことか分からないって言ったら駄々こねだしたのよ」


「駄々じゃない! なんで……そんなこと……ヒッ、ヒック」


 感情が高ぶり過ぎて上手く言葉に出来ないリックの背中を軽く叩きマティが代わりにジュディに話す。


「昨日、媚薬を回収した中にリックのレシピに無いものが含まれている媚薬が見つかったんです」


「それが私の使ってる媚薬から出たの?」


「いいえ。でも、ジュディさんから回収した媚薬はまだ一度も使われた形跡が無かったので、残っている媚薬の瓶を出してもらえませんか?」


 マティの言葉にジュディは表情を崩すことは無かったが、媚薬の瓶を出そうと動く様子もない。マティに抱きついていたリックも顔を上げてジュディの様子を伺い、また涙を溜め始める。


「やっぱり……なにかあるから出せないんだ……」


「違う! 私は毒なんて入れてないないもの……毒なんて……」


「毒とは違う物なら媚薬に混ぜたってことですか?」


 動揺して答えるジュディの言葉にマティは追い打ちをかける様に質問すると、観念したかのように溜息を吐き棚の引き出しから使いかけの媚薬の瓶を取り出した。


「確かに媚薬に少し混ぜ物はしたけど、毒は入れてない。自分が使うつもりだったんだもの」


「ローランドと心中でもする気だったの?! なんでよ! ねえ、答えてよ!」


「もう、落ち着きなさいって! そんなんじゃ、ジュディさんも話せないでしょう?」


 ジュディに突進していったリックの襟首を捕まえて引き寄せて、強めに頭をグリグリと撫でてやるとなんとか静かになりジュディがぽつぽつと話始めた。


「ローランドが身請けしてくれる話、うまく進んで無かったの。だから、媚薬の効果が上がるように、ちょっと混ぜ物したのよ。あんな奴と死ぬ気なんて一切ないわ」


 ローランドのことを本気で好きなのかと少し思っていたマティはジュディの言葉に首を傾げる。


(自由と天秤に掛けたら屑は出るまで我慢できるか……)


 取り敢えず自分の理屈で納得して黙って話を聞くことにしたが、私に張りついているリックは今にもまたジュディに飛び掛かってしまいそうで、マティは落ち着かせるようにリックの背中を軽く叩く。

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