犯人
第43話
「えっと、昨日ぶりですがお邪魔します」
「いらっしゃい! 今日もリックに会えるなんて嬉しいな……リックちょっと顔色悪くないかい?」
今日も兄のステムが出迎えてくれマティの存在をスルーし、しゃがみこんでリックの額に手を当て熱を測っていたが、リックはステムの手を冷たく振り払い睨みつける。
「媚薬を最後に作ったのっていつ?」
挨拶もなく突然質問をされたステムは立ち上がり、カレンダーを眺めながら記憶を辿る。リックは、のんびりとしているステムに苛立つように「早く」と急かす。
「一週間前だね。ジュディがそろそろ媚薬が無くなりそうだって申告が来て、少し早いけど作ることにしたんだ」
「それ、一人で作ったの?」
リックの言葉に目を泳がせて今までにない動揺を見せるステムの様子に答えを聞かずとも誰かと一緒に作ったことは明白だ。媚薬のレシピの情報流出を防ぐために家族以外が媚薬を作ることを禁止されているので、動揺から家族以外の誰かと作ったのだろう予測はつく。
「誰と一緒に作ったの?」
「誰って……その……ジュディが自分のお客さんが減ってるし、何か手伝わせて欲しいっていうから、瓶を洗てもらうとかの雑用をしてもらった……いつもは僕一人で作ってるんだよ! ジュディがなんだか落ち込んでるみたいだったから……」
必死に言い訳をするステムだったが、リックは禁止事項よりも、なぜジュディが手伝いなんてすると言い出していたのかの方が気になっていた。
「ジュディが落ち込んでた理由はなに?」
「う~ん。新規のお客さんからの指名が減ってるっていうのはあるかな……でも、借金もあと少しで返済終わるし、そんなに頑張る必要もないんだけどね」
借金返済の見通しが立てば、新規のお客を減らしていくのは普通のことなのでジュディの落ち込みの原因は他にありそうだ。リックは舌唇を噛み、一人部屋からジュディの部屋に駆け出して行った。
「リック! 冷静にね!」
犯人だと決まったわけではないがリックが心中穏やかではないのは分かっていたので、仕方がないと溜息を吐く。
「あの……なにが起きてるんですか?」
「まだ、なんとも言えませんけど、もう少し媚薬を作った時のこと聞いても良いですか?」
「それは良いですけど……」
「ここ最近でマンドラゴラを盗まれたりとか作り終わってから材料が減ってたとかないですか? いつものジュディさんと様子が違うって思ったところは他にないですか?」
走り去って行ったリックを気にしながらも、ステムはマティの質問に少し考えた後に答える。
「ないない。材料を揃えるのと調合は僕一人でやったから、さっきも言った通りジュディは使い終わった道具とか少し残った材料の処分をお願いしただけだよ。変わったことって言ってもな……」
ステムの答えに、リックが以前教室で片付けの手伝いをしながら残った材料をポケットに入れていたのを思い出す。
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