第42話

「ジュディ……」


 名前が分かったところでリックが気になっている事は分からなかったが、二人の仲の良さは知っているので、気落ちする気持ちだけは分かる。


「私にはこれが媚薬としては一番問題ないように思うんだけど……」


「だから、おかしいんじゃないか」


 少し考えるがやはり答えが分からずマロンを見るが、マティと同じように首を傾げていて答えは分かっていないらしい。二人の様子にリックは溜息を吐いて説明をする。


「月の終わりだから新しい媚薬が配らていても不思議ではないけど、使いかけの物が絶対にあるはずなのになんで渡さなかったんだろう?」


「そんなの、前のやつが丁度使い終わってたとかジュディさんが渡すの間違えただけじゃない?」


「マティが来る前に事情を少し話していたんだ……普通なら空の瓶でもなんでも怖くて調べてくれって渡さないかな? 僕だったらそうする。それに……」


「あぁ……どうやって調べるのかも聞かれて話しちゃったんだ? リックのことを知ってるなら少しでも毒に近づけた物があったら渡さない……そうするとジュディさんがミリーさんとローランドの仲に嫉妬して毒入りの媚薬をミリーさんのところに行くローランドに渡したってことも考えられるよね」


「ジュディはそんなことしない!! たぶん違うよ……」


 毒を混入させたのがジュディだとするとカリオが調べてくれているデイビス・サディスの薬物関与については意味がないかもしれない。それでも、なにか弱みが欲しいので効率よく調べてもらうためにも、このことをカリオにも伝えねばと手帳を取り出して簡単にメモを書き髪の中に隠れている隠密カメレオンを引っ張り出して手紙を渡す。


「急いでカリオ先輩に届けて」


 ベタっとマティの顔を舐めてから隠密カメレオンは姿を消した。尻尾を揺らして何も見えない場所に狙いを定めていたマロンの前に立ち捕獲されないように防御も忘れない。


「リック! これはちゃんと本人に理由を聞いた方がいいよ。違うなら違うでスッキリするし毒を入れたなら理由を聞こう。出かける準備して!」


 落ち込んでいるリックの手を取り「早く!」と笑って急かすと、意を決したように深く頷いて出掛ける準備を始める。マロンは不貞腐れた表情でソファーに座り二人の様子を見ていた。


「マロンも一緒に行く?」


 リックの事情も知っているようだし、仲良くなるきっかけにでもなればとマティが誘うがマロンは頬を膨らませて首を振る。


「いかな~い! ものすご~く退屈で寂しいけど留守番してる」


「ごめんねマロン。帰ってきたらお菓子を一緒に食べよう」


 フォローするようにリックがマロンに謝ると「わかった」と寂しそうに返事をしてソファーに丸まって背を向ける。


「いいの?」


「うん……行ってくるね」

 

 声を掛けるとリックはマティの手を引いて部屋の外に出てドアの鍵を閉めて歩き出す。部屋から少し離れたところでリックが話す。


「マロンは学術院から出れないんだ」


「なんで? 契約はしていてもケット・シーの行動の自由までは奪ってないでしょう」


「マロンは問題を起してそれがまだ片付いてない。罰を受けたままなんだ」


「罰を受けたままってことは反省してないってこと? 馬鹿ね……」


「そう簡単じゃないんだよ」


「簡単よ。自分が悪くない、納得できないなら形だけ反省を見せればいいの。そんなくだらないものに制限掛けられるなんて無駄な時間だよ」


 リックは歩みを止めてマティを信じられないといった様子で見つめて顔を歪めていた。


「マティってもっと真面目なんだと思った」


「そう? 私はリックの反応のほうに驚いてるけど。でも、悪いことして反省しなくて良いってことじゃないからね? 当然、悪くないって主張はすべきだけど集団の中では自分の正義が通らないこともあるし、理不尽なことも当然のようにあふれてるじゃない? それに一個づつ真面目に引っ掛かってたら時間の無駄。こっちが損するだけよ」


「絶対に間違ってなくて譲れない事でも意地をはるのは無駄なの? マティには譲れないものってないの?」


「う~ん。結果がどうであれ自分が納得できれば無駄じゃないかな? 私が絶対譲れないって思うことにまだ出会ったことがないからなぁ」


 腕を組んで考え込んでいるマティの横をリックが溜息を吐いて呆れたように通り過ぎて行く。マティもすぐに歩き出し追いつくと、リックの顔を覗き込んで笑う。


「譲れないものが見つかったら教える」


「良いよ別に……マティってなんか詰めが甘いよね」


「可愛くないわね~考え方が柔軟だって言って欲しいんだけど」


 文句を言い合いながら足早にリックの自宅に向かった。

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