第41話

「ねぇ、どこが違うの? マロンも見ている時、ずっと同じでつまらないって言ってたよね」


「僕はずっと同じ『ような』形って言ったんだよ!ほら、ここのとこちょっと人の形してる」


 リックは机からルーペを取り、マロンが指差す根っこを凝視する。マティも後ろから覗き込むようにして見ると「あっ」と何か気付いたように声を上げた。


「分かったの?!」


「これ以外は根っこの半分は人間みたいじゃない?」


 元々マンドラゴラ自体が人間の体のような根の形をしているので、人間の姿に見えると言われても素直に頷けない。訝し気なリックの様子にマティが写真を指さして分かりやすいように言葉を足す。


「この部分が胸で女性に見えると思うんだけど……マンドラゴラって雌とか雄ってあるの?」


「僕の育てているマンドラゴラに性別はないよ。僕にはこれが女性に見えるっていうのはちょっと分からない。マティとマロンは人間にはない動物的な観察眼があるのかな……そうすると、枯れたマンドラゴラも僕が見るのとマティが見るのでは違いがあるかもしれない」


ルーペをマティに渡して紙に丁寧に包まれた枯れたマンドラゴラを持ってきて見せるが、薬草の知識がないマティには比較できる枯れたマンドラゴラのイメージがなく、なんとも言いようがなかった。


「ゴメン。普通のマンドラゴラもそんなに注意深く見たことないし……枯れちゃってて女性的な凹凸とかもわからないからなんとも……」


「そっか……マロンはどう? 何か気付いたことあったら教えて」


「それはグニャグニャ踊りが面白かったから凄く覚えてる! 枯れちゃう前に元通りになってから枯れたよ」


どうだと言うようにマティに視線を向けながら話すマロンに、苦笑いを浮かべて「凄いね」とマティが賛辞を贈れば満足そうに尻尾を揺らす。リックは二人の観察眼で別の何かが分かったようでメモを書き、広げてある本で何かを確かめ始める。


「たぶん毒の正体はマンドラゴラ」


「んっ? それだと全部毒入りってことになるじゃない」


「量の問題。変化がなく枯れた原因が分からなかったんだけど、おそらく別のマンドラゴラが足されていたんだと思う。マンドラゴラは貴重だからうちの娼館でも、無駄のないように媚薬はマンドラゴラ一株丸々使ってひと月分をまとめて作っているんだ。別のマンドラゴラが3株も混ざることってないんだよ。だから細胞が混乱して枯れたんだと思う」


「マンドラゴラはマンドラゴラじゃないの?」


「株の保存環境なんかで影響を受けてその成分が薬にすると微妙にでるんだ。それと、気になることがもう一つ……」


一枚の写真を机に置くと悲しそうに顔を歪め俯いてしまった。マティは写真を持って何が気になっているのか見つけようとするが、まったく分からず写真を上に向けると電気の光で文字が透けて見え裏返す。

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