第38話
何人かの寮生とすれ違い挨拶をしながらカリオの部屋の前に着き、深呼吸をしてから鍵を開けて「お邪魔します」と中に入った。
「あんまり変わってない…」
マティがまだ出入りしていた時と部屋の様子に変化は見られず几帳面なほどに片付いた部屋だったが、机の上だけ本の山とノートなどが乱雑に広げられていた。近付いて見ると、どうやら卒業に向けてのレポートを書いているようだ。
「本当に勉強で忙しかったんだ」
余りカリオと会わなくなったのをなんとなく自分と会うのが嫌になってきたとか飽きてしまったなどと、少し不安に思っていたが机の上の様子から珍しくレポートに苦戦しているように見える。
「あっ、悪いな汚いとこ見せて。最後に生徒の苦しみ憔悴する姿が見たいとかで、とんでもない課題を出されてな」
部屋に戻ってきたカリオは頭を掻いて恥ずかしそうに机の上に広げられたノートやらを閉じて簡単に片づけ始める。
「いえ、私もカリオ先輩がこんなに勉強してると思ってなかったんで吃驚しました」
「どういう意味だ? 俺は成績はかなり良い方だと思ってるが……」
「だからですよ。一緒に宿題をやっていた時も、だいたい私に勉強を教えてくれるばっかりでカリオ先輩は勉強とか色々な努力をしないでも最初から完璧になんでもこなせる人だと思ってたんで」
マティの目に映っていたのはいつだって完璧になんでもこなしてしまうカリオの姿で、努力して頑張っているなんて想像できなかったのだ。カリオは困ったような笑顔を見せて頬を掻いて話す。
「マティの期待を裏切ったか?」
「人間味が見えて安心しました」
「そっか、ならいいが。寮長には夕飯まで勉強を教えるってことで許可をもらってきた。早速、どうするか作戦を立てよう」
テーブルを挟みソファーに向き合って座り、やけに楽しそうなカリオに高級娼館でのことをマティはざっと話して聞かせた。
「ローランドが娼婦を身請けすることは絶対ないだろうな。どこぞの貴族の女と婚姻がすでに決まっている。身請けしたとしても、正妻ではなくどこかで飽きるまで囲うくらいの感覚だろうな。サディスの方はとにかく悪い噂しかないな」
「ローランドが持ち込んだらしい媚薬は兄のサディスから貰ったものだったとか?」
「可能性としてゼロではないが、兄弟仲は悪くないしローランドを殺すと決まっている金と欲しい繋がりを得るための婚姻が流れてしまって、サディスにはメリットがない。他に考えられるなら、リックの調剤の腕に目を付けてローランドが騒ぎたてて、リックを脅してデイビス家に取り込もうとしているか……サディスの噂には闇ルートで妙な薬を売買しているなんてのもあるからな。取り敢えずローランドが持っていた媚薬については本人から聞き出す」
まさか犯罪に繋がるような相手がリックを狙っているとは思っていなかったので、マティが思っていた以上にリックは危ない状況にあることに気を引き締める。
「そうだ! 私がローランドに媚薬のことを直接聞きます」
「それは無理だろう。見ず知らずのマティに媚薬の話なんていくら馬鹿でもしないよ」
「サディスが妙な薬を売買してるとならきっとローランドにも流れていますよね。娼婦の友人から薬のことを聞いて、気持ちよくなる薬をこちらにも流して欲しいと持ち掛けるんです」
「待て待て! サディスのことはただの噂話だ。確証なんてないし、もしも薬を売買してたとしてもローランドは知らないかも知れない。不審がられてこちらが探られたら危険だ」
「法的に捕まえるのは難しくても弱みぐらいはこちらも掴まないと、リックを助けられません。さっきも言いましたけど、私なら自分の身は自分で守れます」
いつもと逆で慌てた様子のカリオにマティは落ち着いた様子で話すが、カリオは頷くこともなく腕を組んで考え込む。
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