第37話
「まぁ、今回は弟のローランドの方が騒いでるわけだが……それで、薬の方に異常はなかったのか? 煩くせっつかれてる」
「薬はまだリックが調査中です。でも、カリオ先輩ならデイビス家についても調べ上げているでしょう? いつもなら貴族だとしても人を選ぶのにどうして引き受けたんですか?」
恩を売るにしてもカリオは人の道理に外れているような者の依頼を引き受けるようなことはマティが知る限りでは無い。長年一緒にいると言ってもカリオの全貌は見えないし、マティの知らない所では人の道理に外れるようなことをしていても意外だとは思わないだろうが。
「マティが感じてる通り、あの家は骨の髄まで腐ってるよ。悪いことしてるやつの周りには同じようなのが集まるから、金回りがよくて頭の悪い奴を一人懐に入れて屑を選別してたんだよ……で、あらかた屑が分かったから切る前の礼ってことで引き受けた」
「そうですか……カリオ先輩の顔もありますから、ローランドの治癒はどうにかします。それ以外は、デイビスを私がどうしようと問題ないですね?」
「珍しく攻撃的だな?」
首を傾げてマティの顔をジッと見つめるカリオに恥ずかしさを覚えながら、今回の依頼解決についてマティは条件を突きつける。
「娼館内でも依頼人と係わった人が体調を崩してます。症状を見ないとリックも薬は作れないと言ってるので、会わせてください。それと、デイビス家についてカリオ先輩が知る限りの情報を私にも教えてください」
「会うのは問題ない。ただ、デイビス家の情報を知ってどうするつもりだ? 無駄に突くと面倒なことになるぞ」
「友達がもう面倒なことになってて困ってるので助けます。私はゼレストラードの貴族として生まれた時から面倒なことに巻き込まれてますから今更、一人二人の暗殺者が増えたとしても問題ないですし、刃を向けてくるなら容赦なく撃退します」
決意をはっきりと告げるマティの姿に、確かな成長を感じてカリオは目を細めて優しい笑顔を向ける。
「わかった、協力する。話すなら場所を変えよう」
「はい。でもこの時間だと、どこにしますか?」
「俺の部屋でいい。寮長に勉強を教える為だと伝えてくるから、先に入っててくれ」
ポンと鍵を渡されてカリオは二つのカップを手に持ち席を立つとマティの返事を聞くことなく歩いて行ってしまった。
(先に部屋にって……カリオ先輩の部屋で二人きり)
低学年の頃はよく勉強を見てもらうのにカリオの部屋に行っていたが、自分の力でどうにか出来るようになったのとカリオを意識しだしたのと同じに羞恥心も芽生え部屋に行くことは無くなった。
「緊張するな……」
いつまでもここで緊張して固まっていると、戻ってきたカリオが自分の部屋に入れない事態になるので、マティも慌てて立ち上がりカリオの部屋に向かった。
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