第34話
「ところで、あの箱はなに? 僕にお土産?」
「ゴメンお土産じゃないんだ。娼館で使ってる媚薬」
「びやく? なにそれ?」
「娼館で使うお薬だよ」
マロンは媚薬という言葉を聞いたことがなく、机に置いてある箱をクンクンと嗅いで首を傾げる。リックは苦笑いを溢しながら、箱の鍵を開けて中身をマロンに見せる。
「こんなにお薬持って帰ってきてどうするの? リックが使うの?」
「媚薬に毒が混ざってるかもしれないから、調べるのに持って帰って来たんだ」
「毒!? 危ないものは持ってきちゃ駄目だよ」
「人が死んだりはしないし、混ざってるかも分からないよ。ただ、僕のレシピに問題があるなら知りたいから」
「そっか! で、どうやって調べるの?」
尻尾をフリフリさせ楽しそうに返事を待つマロンにリックはソファーから立ち上がり、棚に掛かった黒い布を慎重に取ると棚にはずらっと水栽培されたマンドラゴラが並んでいた。
「わぁ~ だいぶ増えたね。 これをどうやって使うの?」
「マロンの毛を少し貰ってもいい?」
リックはブラシを手にマロンの頭のあたりをブラシで撫でるとそこに着いたマロンの毛をマンドラゴラの入っている水の中に入れた。マンドラゴラからキュッと小さな悲鳴が聞こえ水中の根っこが震えて動き出す。
「あっ、これ僕!? わ~不思議だね」
自分と同じ猫の姿に変わったマンドラゴラを目を輝かせて楽しそうに眺めているマロンを笑顔で眺めていたリックだが、重い口調で説明を続ける。
「水の中に入れたものの情報を吸い込んで形を変えるんだ。媚薬は色々混ざってるからマンドラゴラに負担が掛かって枯れちゃうかもしれない」
「リックが大切に育ててるのにいいの?」
「可哀想だけど、僕が調べるにはこの方法しかない」
調べる媚薬の数だけ水栽培したマンドラゴラを棚から机に移して並べ始めると、マロンも手伝い始める。
「お手伝いもするから、調べるの見てても良い?」
「いいけど、そんなに楽しくないと思うけど……」
「楽しい! 形が変わるの見てたい!」
マロンにとってよほどマンドラゴラの根が形を変えた様子が気に入ったのか尻尾を左右に振ってキラキラと目を輝かせて早く始めろと訴えている様子にリックは苦笑いする。大切に育ててきた水栽培のマンドラゴラがもしかしたら枯れてしまうことに仕方がない事態だと分かっていても気落ちしてしまう。
「媚薬をマンドラゴラの前に並べてくれる?」
「はいは~い」
鼻歌交じりにマロンが準備している間にリックは変化の記録を取るために机からカメラを取り出して首にかけ、メモを用意する。
「準備できたよ」
「僕も出来た。そうだ、もしかしたらマンドラゴラが悲鳴を上げることもあるから耳、気を付けて」
媚薬を持ちマロンに注意をすると耳を両手で抑えるのを見てからマンドラゴラの入った水に媚薬瓶から薬さじに出してから数滴垂らすと、キュキュット悲鳴が聞こえ、根の変化と共に上部にも葉と花が生えた。
「わぁ~面白い! リック、次も早く!」
「記録を取ってからね。これは媚薬に変な物が混ざってる様子はなし……土に植え替えたら大丈夫かな……」
結果を気にしつつ、マンドラゴラの具合を心配して根や葉に枯れた様子がないかをチェックして、水換えに行く。
「リック~早く次の! 僕がこのお薬水に入れてもいい?!」
「あぁ!! ダメ! 今より少なくても反応ありそうだし僕がやるからマロンはそこで見てて!」
「は~い」
マロンが耳を両手で押さえて尻尾をゆらゆらと左右に揺らしながら次をおとなしく待つ横をリックは忙しく道具を薬さじからスポイトに変えて慎重に次のマンドラゴラの水に一滴だけ垂らす。先ほどよりも小さな悲鳴がキュッ聞こえ形を変えていく。
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