マンドラゴラ
第33話
「早く帰れうんこ女! べぇ~」
小さな悲鳴と共にマティの姿が消え、空間のゆがみも無くなりけらけらと笑うマロンにリックが溜息を吐いて確認する。
「ねぇ、ちゃんと紅玉館に送った?」
「リックの頼みだからね~」
「ありがとう。僕の部屋で一緒にお茶しようよ。あと、マロンのブラッシングも……新しく毛艶が良くなるの作ったからさ」
「本当?! 今すぐリックの部屋に帰ろう!」
ご機嫌斜めだったマロンがリックの誘いに目を輝かせ尻尾をフリフリ空間を歪めてリックの手を引き中に入ると、目の前にリックの部屋の扉があった。鍵を開けてリックの部屋に入ると勝手知ったる他人に家とばかりにマロンはお茶の用意をしにキッチンに向かう。リックは媚薬の入った箱を机に置き、ソファーに座って一息つくと紅茶とお菓子をトレーにのせてマロンが隣に腰を下ろした。
「ありがとうマロン」
「家に帰ったんでしょう? 意地悪されなかった?」
「別に意地悪なんてされないよ。気まずいだけ……でも、マティが一緒だったから少し兄さんと話した」
温かい紅茶をフーフーと息を吹きかけて冷ましていたマロンがカップをテーブルに戻し、ニッと牙を出して笑う。
「仲良しに戻ったの? お父さんとお母さんとは?」
「仲良しには戻ってないよ。あと、二人は留守だったから……」
「そっか! それならよかった! 仲良しに戻ったらリックは居なくなっちゃうんでしょ? 僕また一人になっちゃうの寂しいもん」
耳と尻尾をへにゃりと下に落としたマロンもリックと同じく家族関係が上手くいっていない。
七匹兄弟の末っ子で甘やかされて世間を知らずに育ってきたマロンが、アラステア王立学術院の門番ケット・シーになり生徒達が遅刻すると困っているところをクロノスの扉ではなく、空間を歪めて移動させてしまったのだ。
それ以降、マロンを良いように使う生徒達が現れ、半場脅されるように大人数を移動させた時に移動途中の空間に一人取り残してしまう事故が起こった。教員として働いている三男のソルベが生徒を救助したことで大事には至らなかったがマロンは脅されていたという事情も話せないままにソルベに激怒され、その場から逃げ出してしまった。
生徒が怖くて門番の仕事も思うように出来ず、いつも誰も来ない南棟の雑草だらけの校庭で時間をつぶしていた。そこにリックが人知れず畑を作り始めたのをこっそり見ていたのをリックに見つかり、いつの間にか秘密を共有する友達になっていたのだ。
「マロンはソルベ先生と話したらすぐに仲良しに戻れると思うんだけどな……僕は、仲良しに戻れても迷惑になるし、畑のお世話もあるしね。そうだ、そろそろマロンが好きなマタツミの実が収穫できるよ」
「いっぱい採れるといいな~」
ケット・シーの好物の一つであるマタツミの実の話で落ち込んでいたマロンはすぐに涎を溜めてニャフニャフ笑って元気を取り戻した。リックもそれ以上は何も言わずに紅茶を口に運んだ。
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