第31話
「国が係わるぐらいなら借金は相当の額だよね……ジュディさんが嫌な奴でも身請けされる気持ちも分からなくはないなぁ」
ため息交じりにマティが話すがリックは返事せずに出来上がったミリーの薬を瓶に入れていた。
「ここではこれ以上、媚薬の中身を詳しく調べられないから寮に持ち帰って調べる。兄さんに薬を渡してくるから少し待ってて」
よほどジュディのことが気がかりなのか肩を落として薬を届けに部屋を後にする。残されたマティはホッと息を吐き机の端に寄りかかり並んだ媚薬を眺めていた。薄っすらピンクがかった色と甘い香りがする液体はまさに媚薬にふさわしい感じだが、これをリックが作ったっていうのはかなり違和感を覚える。
「媚薬なんて本当に効果あるのかしら?」
近付いて香りを嗅いでみるが、甘いだけで気持ちが高揚するような感覚は全くない。
(飲むのかな? 変な気分になるのかな……)
好奇心から少しなら大丈夫じゃないかの誘惑に媚薬に指を伸ばすと、リックが部屋に戻ってきたので慌てて指を引っ込める。
「なにしてるの?」
「いや、その……ちょっと舐めてみたら分かるかなって……ほら私、獅子族だからそういうの敏感に感じ取れるかな……とか」
明らかに動揺をしたマティにリックが首を傾げて近付いてきて、ポケットからメモを取り出してマティを見上げた。
「で、舐めてみて何か分かった? あと、獣人族ってそんなに薬とかに敏感なの? 効き目が強く出たりするの?」
「えっと……舐めてない。基本的に体が丈夫だから薬飲まないし……香りには敏感くらいかな……」
リックの純粋な質問の前に自分の邪な好奇心を口にすることが出来ず乾いた笑いをすると、何かを察したのかリックがメモをポケットにしまい溜息を吐く。
「媚薬って別にエッチな気分になったりするもじゃないから。口に入れても問題ないけど、基本的には陰部に負担が無いように潤滑させるためのものだよ。必要ならマティにも作ってあげるけど……」
「いっ、いらない!! 必要ないし!」
「マティは濡れ……」
「もういいから!? お、お兄さんはなんて言ってた?」
しれっと真顔で年下から恥ずかしいことを言われそうなのをリックの口を手で塞いで別の話題に差替えた。
「ジュディの身請けの話は、ローランドの方からは何も言ってきてないみたい。父さんがジュディの今後と身請けの金額を値切られるかもって気を揉んでるってさ……ミリーのことについては、珍しくローランドが3倍の金額を払って今後の相手を替えたいって話してったて」
「それって……ジュディさんがやっぱり騙されてるってことになるのかな。怒るべきか喜ぶべきかジュディさんの気持ちを考えると複雑だね」
二人そろって肩を落とすが、そろそろ戻らないと寮の門限に引っ掛かってしまう時刻が迫っている。
「そろそろ戻るけど、何か持って帰る物はある?」
「この媚薬を全部。寮でもっと詳しく調べてみるから小瓶に媚薬を移すの手伝って」
ミリー以外は特に体調を崩していないので、ミリーから受け取った小瓶以外に毒性はなさそうだが危険物には違わないので、小瓶にラベルを付けて媚薬を収集し、箱に詰めて鍵をかけた。
「帰ろう」
「それ、私が持ってくよ。家族に挨拶はいいの?」
リックは何かを言いかけて唇を噛んで静かに頷いた。本当ならゆっくり諭して話しておいでと背中を押したいところだったが、そんな時間的余裕は残されていない。
(門限遅れたら洒落にならない)
処罰はそれぞれの寮で違うが、以前にマティは門限を破った寮生を目撃したことがあったが悲惨としか言いようがないほどの罰を受けていた。
「パッと挨拶だけして、急いで帰ろう!」
マティは鍵の掛かった箱を小脇に抱えリックの手を掴むと玄関に急いで向かい、客間に居たステムに声を掛ける。
「今日は突然、お邪魔しました。寮の門限があるので帰ります! ありがとうございました」
「また、リックと一緒においで。いつでも大歓迎だよ! 気を付けてね」
おとなしく手を繋がれているリックは俯いたままで「またね」の一言ぐらいあっても良いだろうとマティがリックの手に力を入れて「挨拶」と小さな声で伝える。
「……なにか分かったら連絡する」
「うん! リックからの連絡、家族全員楽しみに待ってるから!」
ステムは目元を拭いながらリックの頭をそっと撫でて何度も頷いている。悪いと思いながらもマティは頭を下げてリックを引っ張るようにして家を後にした。
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