第28話

(なんでカリオ先輩はデイビスってろくでもない奴から依頼を受けたんだろう?)


 まだ依頼人がデイビス・ローランドと決まったわけではなかったが、人を選ぶカリオがなぜこんな相手の依頼を受けたのは、何か弱みでも握られているか、よほど自分にメリットのある相手なのだろう。


(私はお近づきになりたくないし、今回の件も助けたくない)


 けれど迷惑を被って困っている人を見てしまって、助けたいと思ってしまっている以上は今回の件は簡単に終わらすわけにはいかない。


「友達のリックも困ってるしね」


 年が離れたしかも年下のクソガキと友達になるとは予想できなかったが、あの小生意気なリックに友達と言われて、嬉しくも思っていた。ミリーから受け取った媚薬の入った瓶をポケットにしまい、薄く開いたドアをノックして中に入る。


「失礼しま……なにやってんの?!」


 リックがベッドに腰かけたジュディの豊満な胸に埋もれバタバタと藻掻いている様子に目を見張る。


「あら、リックの彼女が戻ってきちゃったわ」


「ジュディ! いい加減にしてよ……苦しい」


 顔を上げたリックを見てマティは更に目を見開いてしまう。リックの顔に、さっきほど付いていた口紅が更に増えている。


「しばらく見なかったから、どれだけ大きくなったのか抱きしめて確かめただけじゃない」


「あっそ、ジュディも相変わらずフワフワだね」


「そう? ありがとう」


(なにこの会話)


 二人の姿だけの関係性なら親子か姉弟。会話が付くと急にやましい関係性に見えてしまうのは高級娼館という場所のせいだろうか。マティは咳ばらいをして鏡台を指してリックに自分の顔を見る様に促した。


「あぁぁぁ!! 制服に付いたら大変なのに! ジュディのバカ!」


 鏡台に置いてあるティッシュで顔をゴシゴシ拭いているリックを見てジュディが楽しそうに笑う。マティも苦笑いをしながらその様子を眺め、横目でジュディを伺っていた。


(もうリックは話したのかな? ローランドのこと、どうやって話そう)


 顔を拭いたリックがマティの後ろに隠れるように立ち両手を広げてまだ抱きしめる気満々のジュディに話しかける。


「ちょっと話したいことがあるんだけど……」


「なに、あらたまっちゃって」


 広げた両手を膝に戻し訝し気に小首をかしげマティの後ろから出てきたリックに微笑みかける。


「さっきは何であんなにミリーに怒ってたの?」


「あぁ、ちょっとしたトラブルよ。大したことないわ」


「兄さんは何も言ってなかったけど、あの言い方だとお客も絡んだトラブル見たいだけど」


 余裕のある笑みをまだ口元に浮かべていたジュディだが、視線はとても大したことない様子ではない。マティはミリーから事情を聞いているので分からなくはないのだが、ジュディの迫力に口を挟むのを躊躇してしまう。


「そっちのお嬢ちゃんはミリーに理由を聞いたんじゃない?」


「えっと……手違いでお客さんの顔を知らなかったので客が代わっていたのに気付かないで仕事をしてしまったと」


「なにそれ?! 金払いの良いほうの客に勝手に替えたくせに!!」


「ないよ。そんなの店が許さないのジュディだって知ってるでしょう?」


「客がデイビス家の人でも?」


 ジュディがリックの事件のことを匂わせると、リックの顔色がさっと変わり俯いてしまう。

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