デイビス・ローランド

第27話

「さっき、ジュディさんが人の客を取ったって言ったけど本当は違うの。私の処女を買うってお客さんはちゃんと決まってたんだけど、無理やりジュディさんのお客だった人が入れ替わってたの。私は名前だけで初めての相手の顔なんて知らなかったし……」


「それって、客のルール違反じゃない! お店には、言ったんですか?」


「初めてで緊張もしてて、事が済んだ後でジュディさんに怒鳴られて知ったの。もちろんオーナーの耳にも入っているけど、訳ありのお客みたいで……」


「もしかしなくても、デイビスって奴じゃないですか?」


 ミリーは目を見開いて驚いた表情でマティを見た後に力なく笑って見せる。


「そう、デイビス・ローランドって名前だった……詳しくは分からないけど、ジュディさんの好い人だって言われてるみたい。でも、あの男の正体は獣よ! 初めての私にあんな……」


 両手で顔を覆ってワンワン泣き出したミリーに少し驚きながらそっと背中をさすって宥める。女の子にしてみれば、娼館に入ったとしても特別なものだっただろう処女を酷い失い方をしたのが見て取れる。ただ泣いているミリーになんと声を掛ければいいのか分からないでいた。

 

 これから先、ミリーが望もうがどうしようが客を取らない選択肢はないし、いくら店側が気を付けようとも現にこうやってルールを破る者もいて下手な慰めはかえって傷つけるだけでだろう。


「ごめんなさい……お客さんを悪く言ったのはオーナーには黙っていて。怒られちゃうから。でも、ジュディさんにはローランドに身請けしてもらうのは辞める様に言ってもらえない?」


「えっと……それはどういう理由で?」


 頭に浮かぶのはミリーがローランドを自分の客にしたいからか、よほどのクズ男で警告をして欲しいのか。


(金払いが良いなら自由を得る為に我慢して客にしたいって思うかもだけど、たぶんミリーの様子からクズ男だからってほうかな?)


 ミリーの印象はまだ、娼館に入って日が浅い為か純粋で優しい女の子と言った感じで、人との駆け引きなんて出来そうにない印象だ。


「あの男、私に言ったの。あんな年増の女は止めてお前を変わりに身請けしてやるって……もちろんそんなの私は本気にしてないけど、ジュディさんのあの怒りようを見たら本気で身請けの約束でもしてるんじゃないかって思って……」


 すでに事が済み、怒っているジュディにミリーがこんなことを忠告すれば地獄絵図が浮かぶ。身請け話を本気にしていなくてもローランドが指名を無理やりにでもミリーに替えれば結局、同じようなものだ。


(でも、これをジュディさんに伝えるの私も嫌なんだけど……)


 大役を押し付けられた気持ちに若干気持ちが重くなったが、マティはここから自由に出ることができ、これからさき顔を合わせない選択が出来る。


「わかった。ジュディさんにローランドのことを聞いてみる。本気で身請けの話を進めているようなら、今の話を言う。結局、ミリーさんが嫌な思いをしちゃうかもしれないけど……」


「うん……でも、居心地の悪さは大差ないから。ごめんね変なこと頼んで……それと、これを預けるから調べてみて。ローランドが使った媚薬」


 ベッドサイドに置かれた小瓶の一つをマティの手に握らせ力なく笑って見せる。マティも小さく頷くと席を立ち、ミリーの部屋を後にする。廊下にはもうリックの姿はなく、先ほど立っていた場所のドアが少し開いていた。

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