原因

第25話

「リック・バーレスクです。具合が悪いと聞いたので様子を見に来ました」


「はい……どうぞ……」


 蚊の鳴くような小さな返事が聞こえドアを開くとベッドにマティとそう変わらないだろう年頃の女の子が寝込んでいた。


「はじめまして。バーレスク家の次男のリックです。体調はどうですか?」


 リックは落ち着いた様子でベッドサイドに向かい声を掛けると寝込んでいた女の子が体を辛そうに起こそうとしていたので、とっさにマティがそれを助けた。


「大丈夫? 辛いなら無理しないで」


「いいえ大丈夫です。あなたが噂のリック君……初めまして、ミリーと言います。あと、こちらは……?」


「噂の? どうせジュディがなにか言ってたんでしょ……こっちはマティ・コッカー。僕の友達」


 さらっとリックが紹介するがマティは「友達」と紹介されたことに驚きながら少し嬉しくて笑みを浮かべてリックを見た後にミリーに挨拶をした。


「それじゃ、具合はどんな感じ?」


 メモを取り出してリックが聞き取りを始めたので、マティは部屋を見渡し丁度いい椅子をベッド近くに移動させて座る。


「えっと……体がだるくて少し熱っぽいです。でも……その……」


 元々、少し赤らんでいた顔が益々、赤くなり恥ずかしそうに俯いているミリーに変わり、リックが質問する。


「初めての客で、処女を散らした人が同じ症状になることもありますが、ミリーの症状は2日以上続いているでしょう? ほかに心当たりはない?」


 あまりに明け透けに部屋の中で一番年下のリックが何の抵抗もなく話す内容に、ミリーとマティは絶句して固まってしまう。当然、知識としては娼婦がどういった仕事をするのかを知っているが、あまりに生々しく話されると娼婦として日の浅いミリーとなんの経験もないマティには刺激が強い。


「アハハ! 相変わらずだねリック坊やは……まぁ、生まれも育ちも娼館なんだから当然か」


 ドアから元気のよい笑い声と共に、まさに熟した娼婦の色香を感じる女性がドアの縁に寄りかかっていた。


「久しぶり、ジュディ」


「あれ、その子はもしかしてリック坊やの彼女? 相変わらず小っさいのに男になったの?」


 色香の混じる冗談に、マティが慌てて「友達」だと否定するとまた楽しそうに腹を抱えてジュディが笑う。だが、そんな中ベッドにいるミリーは顔を強張らせて掛け布団を握りしめていた。


「ジュディいまミリーの具合を聞いてるとこだから邪魔。後で部屋に行くから」


「あら、釣れない。人の客を処女で釣って何日もお休みなんて良い身分ね。仮病なんじゃないの?」


「そんな……」


 か細い声でミリーが一瞬否定するが、すぐに唇を噛んで俯いてしまう。見かねたリックがジュディに近づき部屋の外に押し出す。


「早く部屋に戻っててよ」


「はいはい。早くね……」


 リックの頬にキスをしてジュディはヒラヒラと手を振ってミリーの部屋から出て行った。ドアが閉まるとミリーはホッと息を吐いて安堵したような表情を見せる。


「あの、なんかミリーさんとジュディさん喧嘩でもしてるんですか?それとも、みんな仕事上のライバルみたいな感じで仲良くないとか……」


 思わずマティが口を開くとミリーは苦笑いを浮かべるだけで何も答えないが、頬に口紅を付けたリックが首を傾げて答える。


「僕がいた時は、小さな喧嘩はあってもみんな仲良しだったよ。それにジュディがあんなに仲間に意地悪なこと言うの初めて見た。ミリー何があったの?」


 ミリーは俯いたまま首を横に振って無言を貫き通すのでリックとマティは怪訝な表情を浮かべる。

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