第24話

「ありがとう。こんなにいっぱいある薬草やらなんだかを合わせて直ぐに薬作っちゃうなんて本当にすごい!」


 かがんで視線を合わせながら御礼を言うと、リックは少し顔を赤らめてマティの視線を避け机に残っている薬瓶や薬草を棚に戻しに向かう。


(クソガキだけどリックは毒なんて作らない)


 意図して誰かを苦しめようとする薬は作るような子ではないと、まだリックと知り合って短い間だがマティの直感がそういっている。


「ステムさんからリック君が学術院に入学しなきゃいけなかった事情を聞いたよ。私も自分の意志で学術院に入ったわけじゃないから、事情は少し違っても気持ちは分かる」


 リックはマティの話に少し驚いたように薬瓶を棚に置くと振り返ってジッとマティを見つめて口を開く。


「マティの事情はなに? それと……僕もマティって呼ぶからリックでいい」


「そう? 私のは貴族ってことと国の事情で暗殺される恐れがあるから学術院の寮に入れられたの。卒業するまでに国で生き残れる術を身に付けろって言われてる」


「家族は守ってくれないの? マティは寂しくなかった?」


「凄く寂しくて不安だったよ。私は簡単に家に戻ることも出来ないし。それに両親とは離れて暮らさなきゃだけど、それでも私を守っているんだって分かってるから今は学術院に入れてもらって良かったって思ってるよ」


 事情を話すとリックは顔を歪めて俯いて拳を振るわせていた。頭の良いリックが家族の気持ちに気付いていないはずがないが、幼い心にそれを受け入れるだけの余裕がないのだろう。


(善意で行ったことに難癖付けられて、色々受け入れ難いか……)


 マティの事情は国が絡んでいることもあり一朝一夕には解決できないが、リックの問題はたかが貴族一人の難癖ならどうとでもなる。


「私はいまアラステア王立学術院で生きる術はもちろん友達なんかも出来て、卒業後にはこうしたいなとかって自分の生きていく選択肢が広がって良かったと思ってる。けど、リックは学術院を辞めて直ぐにでも家に帰りたい?」


「でも、僕が家にいると迷惑になる……」


「その迷惑がなくなったらどう?」


 困惑した表情でマティの瞳を探るように見つめ、口を開こうとしてまた下を向いて黙り込んでしまう。


「取り敢えず、薬の問題を先にどうにかしよう! 全部片付いた時にもう一回、よく考えてみて。それじゃ、何から始める?あっ、お店の子で具合が悪くなった子がいるって言ってたけど、もう会ってきた?」


 急いで答えを出す必要性もないので、雰囲気を変える様にマティはカラッとした笑顔を向けて俯くリックに話しかける。まだ浮かない顔を向けて首を横に振って答え、机の上に広げられた客のリストを取りマティに渡す。


「リストを見る限りでは、デイビスの人間以外は変な客との接触はないと思う」


「そっか……その具合が悪くなってる子に合って話を聞いてみる方がいいね。すぐ会えるのかな?」


 高級娼館で働く女性は大体が貴族崩れで借金や多額のお金を手にする為に、娘が売られてくることが多い。ただ、国で認めている娼館は娼婦との契約もしっかりとしているので、衣食住とそれなりの自由が保障されている。


 頑張ればいい相手に身請けをされることも、自分の力で借金を返して自由になることも出来る。もっと場末の国で認められていないような娼館は汚い部屋に鎖で繋がれ安い賃金で奴隷のように扱われ、一生自由になることなど出来ないような酷い店もある。


「ほとんどの人は自分の部屋で休んでると思うよ。僕もこの新しい人には会ったことない」


 マティもざっとリストに目を通し、現在働いているのは7名ほどでリックと一緒に娼婦達の居住する部屋に向かう。一番最初に具合を悪くしているという新人の部屋をノックする。

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