第23話

「ちなみに、リック君が作った睡眠薬に代価は発生してますか?」


「とんでもない! 薬を飲んで目覚めないとデイビス家の者がやって来て初めて事を知ったんです。リックに聞けば、調剤は出来ても許可証は持っていないと説明したと言います。それでも良いといわれたので、勝手に作ってお父さんに怒られるかもしれないって思ったけど、眠れないのはかわいそうだからと作ってあげたんだと……今でも、デイビス・サディスは客として来ますが、なにかとリックのことをちらつかせてサービスしろと無茶なことを言ってくるんです」


「出入り禁止にすることは出来ないんですか?」


「リックのことがあるので……デイビス・サディスの弟も出入りしていて……弟のローランドは学術院の生徒なんで下手に逆らったり刺激して、命を取られないとしても学術院内でリックに何かされたら困ります」


 そこまで聞いてマティは嫌な予感を覚える。カリオには今回の依頼主の名前を聞いていないが、もっしかするとデイビス・ローランドが依頼主ではないか。そうだとすれば、バーレスク家の事情を知ってしまった今、ただ解毒剤を作ってもらっても終わらない。


「今日、私がリック君とここに来たのは学術院のある生徒がこちらの娼館で毒を盛られたと言うので、調べに来たんです」


「えっ?! そんな苦情はサディス以来、出ていませんが……。ただ、新しく入った子が体調を崩して、医者に見せたところ原因が媚薬にありそうだと言うのでリックに連絡したんですよ」


「私も依頼者の名前は聞いてないのですが、その新人の子はデイビス・ローランドの相手をしていませんか?」


 予感を確かめるように話すとステムの顔色がサッと変わり「まさか」と呟いたまま固まってしまった。兄弟そろってバーレスク家の薬で問題が起きたとなれば、今度こそ何かしらの制裁を受けるだろうことを考えれば当然の反応だ。


「依頼主のことは私がきちんと調べます。もしも、デイビス・ローランドであったらそれなりの対処をしますので心配しないでください。取り敢えず、媚薬についてリック君に調べてもらわないと、どうにもならないので……」


「そ、そうだね。たぶんリックは自分の部屋にいると思う……」


 意気消沈しているステムにリックの部屋を聞いて向かいマティがドアをノックするが返事がない。何度かノックした後に居なくてもリックの部屋には興味があるし、部屋で待っていれば戻ってくるだろうとドアを開ける。


「いるじゃない。もう、返事しなさいよ」


 ドアを開けると机に突っ伏しているリックの姿を見つけて溜息を吐く。部屋の中は学術院の寮と差ほど変わらず、違いと言えば広さと生きた植物が無いことだけだろう。


「勝手に入ってくるなよ!」


 部屋の物色を始めたマティにリックが顔を上げて真っ赤な目で怒鳴るが、まったく動じることなく棚にある乾燥した植物を手に取り眺めているマティに慌てて飛び掛かる。


「勝手に触るな! 素手で触ると駄目なやつ!」


「わっ、危な……えっ、そうなの?!」


 飛びついてきたリックによろけながら、慌てて手に取った乾燥した植物を元にあった場所に戻し、自分の手を確かめていると腰辺りに抱きついていたリックが溜息を吐く。


「それ、素手で触ると疱疹が出るんだ。乾燥してるから大丈夫だとは思うけど、早く手を洗った方が良い」


 部屋の角に設置された洗い場を指さしマティが手を洗っている間、リックはいくつかの薬草と薬瓶を机に揃えて秤で分量を見ながら混ぜ合わせて薬を作り始めた。


「洗ってきたけど……大丈夫そうだよ」


 ハンカチで手を拭きながら調剤しているリックの様子を覗き込み自分の手を見せた。リックは手を止めてマティの手を取ると掌と甲をじっくりと観察する。


「皮膚が強そうだし、問題なさそうだけど一応もしも発疹がでたら、これを塗れば治るから」


 手を放し調剤したものを小さな缶に入れて手渡すと、マティは感心したようにリックを見て笑顔を見せる。

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