第21話

「私、リックのお兄さんと文通したくないよ」


「だろうね。どうせ僕の様子を書いて送れって言われたんでしょう? 追い出しておいて心配するとか意味が分からない」


「理由は知らないけど、お兄さんが物凄くリックを心配してるのは本当だ思うけど……元気の一言でも書いて送ってあげればいいじゃない」


「今更……僕がいると面倒で邪魔だから学術院の寮にいれたんだ!」


 手に拳をつくり顔を歪めて怒鳴る姿に、マティは初めてリックが年相応の子供に見えたきがした。ここは、年上として理由を聞いてあげるべきかとマティは小さく溜息を吐く。


「家族にそんな風に思われる何かをしたの?」


「コッカーさんには関係ない」


「あっそ。理由はきっと可愛くないからじゃない」


「僕は、可愛いです!!」


 一点の曇りもない瞳で「可愛い」と自分で言い切るリックに若干引きながらも、更に挑発するように話す。


「そうかな? 生意気で素直じゃないし……あぁ、だから友達もいないんだ」


「いるよ! 何にも知らないくせに意地悪ばっかり……ズッ」


(まずい?! 泣かすつもりはなかったんだけど)


 目に涙を溜めて必死にマティを睨みつけている姿に多少可愛いと感じてしまうのは、マティに獣の血が混じっているからだろうか。このまま泣かせただけでは、リックの事情も分からないばかりか解毒剤を作ってもらうことも難しくなる。それに、このタイミングでステムが戻ってきたらどうなるか。


「リック、お客さんのリスト持ってきたよ。体調、崩してるミリーにはまだ会ってない……どうしたのリック? なにかあったの?」


「兄さん! うわぁぁぁん! 意地悪された」


 マティを指さしこれ見よがしに大声で泣き出しステムの背中にリックが張り付く。オロオロとするステムがマティに視線をよこし、何があったのかと詰め寄ると、その後ろでリックが舌を出していた。


(この、クソガキ……)


 相手がその気ならとマティも反撃に出ることを決め、眉尻を下げてステムに話す。


「家族のことでリック君が一人で悩んでいるようだったんで……学術院ではいつも一人ぼっちだし何かあった時に私なら力になれると思って理由を少し強く問い詰めてしまったんです」


「家族のこと……それは……」


「それに、ご家族の方に心配させないようにって思ってさっきは言わなかったんですけど、先日もクラスメイトに頭を殴られて怪我させられそうになってましたし……」


「そんなことが!? リックがイジメにあってるなんて……」


 学術院での話をされてリックがステムの背で動揺しているのを尻目に、畳みかける様にステムの心配心を擽る。


「私だったらリック君のこと助けてあげられるんですけど……仲良くなるのに事情の一つくらい知らないと、ふとした会話で泣かせてしまうと困りますし」


 最後にすっかり涙も引っ込んでいるリックを睨むと唇を噛んで俯き、ステムから持ってきたリストを奪い取ると逃げるように客間から出て行ってしまった。

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