第16話
ジャバジャバと厩舎で靴を洗い、お気に入りのバレッタだったが馬糞に落ちたものでもう一度髪を留める気にはなれず廃棄した。
「あのクソガキども……」
文句を吐きながらビショビショになった靴を取り換える為にマティは髪を逆立てたまま紅玉館の自分の部屋に戻る。部屋で濡れた靴と靴下を脱ぎ、ベランダに濡れた靴を干し靴下はその辺に放り投げて一人掛けのソファーに体を沈める。
(ケット・シーに気を付けろってアイツのことか……)
食堂で会ったケット・シーが言っていたマロンという名前のケット・シーがアイツだと思い浮かべて記憶する。わざとクロノスの扉を別の場所に繋げるのは門番のルール上、違反ではないのかなどと考え込んでいると、マティの部屋のドアがノックされる。
「マティ? 部屋にいるか?」
「はい。カリオ先輩?」
部屋を訪ねてくるなど、かなり珍しいことにドキドキしながら慌てて髪を整えて部屋のドアを開けると、隠密カメレオンを肩にのせ、背中に何かを隠したカリオが立っていた。
「どうしたんですか?」
「うん、ちょっとな……あぁ、その感じだとやっぱり」
靴と靴下を脱いだのを忘れて短いスカートから見える素足を見てカリオが苦笑いを浮かべている。不意打ちを食らったようにマティは自分の見せている脚が恥ずかしくなり、開けたドアを反射的に閉めようとするが「まった待った」とカリオに抑えられてしまう。
「あの、ちょっとだけ待っててください!」
「俺もすぐ戻るから気にするな。これだけ渡そうと思って……はい」
背に隠していた新しい靴をマティに見せてニカッと笑う。閉めようと押していたドアから手を放し、ぽかんと口を開けて両手を差し出してカリオから靴を受け取る。
「これ、なんで? まさか、見てたんですか⁈」
「まぁ、なんとなくプレゼントしたくなっただけだよ。それと、使えるアイテム。あぁ、こいつもだ……じゃあなレオン」
肩にのせていた隠密カメレオンをマティの頭にのせるてカリオは一通の封筒を両手のふさがってるマティのポケットに入れると帰っていく。しばし呆然としながら、カリオに御礼を言っていないことに気付き慌てて去っていく背に御礼を言うと、片手を振って答えてくれた。
ドアを閉めて新しい靴を眺めて机の上に置くと、頭の上にいた隠密カメレオンにビタビタと頬を舐められ、頭から降ろしていつの間にか隠密カメレオンが住処にしていた机の引き出しを開けて中にいれた。
「なんで靴なんて……あっ、サイズ聞かれた。タイミングいいな……それよりも、使えるアイテムってなんの手紙だろう?」
ポケットから手紙を出して宛名を見るとリック・バーレスク宛の手紙だ。差出人はリックの家族から。
(どこで手に入れたんだろう……)
確かに家族からの手紙を持ってきたと言えば、なんとかリックの興味を引いて話が出来るかもしれない。気分が落ちていたマティだったが、鏡台に並ぶバレッタの中から水牛の角で作られた留め金も頑丈なものを選び髪をまとめ、靴下を履きカリオから貰った新しい靴に足を入れて紐を調整して立ち上がる。
「ピッタリ! しょげてる場合じゃないよね。待ってろリック・バーレスク!!」
小さくて大きな敵になったリック・バーレスクを倒すべく勢いで部屋を出て情報収集に向かった。
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