第15話
「ちょっ、待って! 少し話したいだけだから」
「知らない人とは話さない。知らない人から物を貰ってはいけない」
リックは、早足で歩きながら小さいろ子供が不審者に連れていかれないように大体の家庭の言いつけを言い、マティのことを完全に拒絶していた。マティがリックを追いかけることには何の問題もないが、不審者だと言われた後にリックの歩みを力づくで止めたら、きっとずる賢いリックは悲鳴を上げてまだ教室にいる教師を呼ぶだろう。
「知らない人じゃないでしょ? お昼に食堂前の廊下で助けてあげたじゃない」
リックはピタリと足を止めて嫌悪感丸出しの表情でマティを睨み上げて溜息を吐き、苛立った様子で頭を下げる。
「その節はありがとうございました。これで満足ですか?」
「別に御礼を言って欲しくて来たわけじゃなくて、バーレスク君と話したくて……お菓子もあるし、ちょっと話さない?」
「そうですか……そうですよね、助けてくれなんて頼んでないし。知らない人にはついて行かない。失礼します」
取り付く島もなく、リックはクロノスの扉に走っていく。もちろん、このまま逃すはずもなくマティがすぐに追いかけ、クロノスの扉の門番をするケット・シーと言葉を交わしているリックの肩を掴もうとするが、するりとマティの手をすり抜け扉を抜けていった。
「今の子と同じ場所に……駄目か。蒼玉館にお願い」
昼食時のことを思い出し、リックが逃げるならたぶん自室のある寮に戻るはずだと踏んでケット・シーに行き先を告げて銀の鍵を見せる。
「お前の校章は紅玉。蒼玉館になんの用事?」
「友人に会いに行くの。早く通して!」
ケット・シーは訝し気にマティを見て無言のままクロノスの扉を開く。繋がった瞬間にマティは急いで扉をくぐり、着地した地面の違和感に下を向く。
「あ゛ぁ、そんな……なんで、うんこ!!!」
蒼玉館に繋がっていたはずのクロノスの扉が西塔の厩舎に繋がっている。通常なら西塔のこんな場所に固定されたクロノスの扉はない。マティは自分が通ったクロノスの扉を見ようと振り返るとバタンと扉が閉じる。そして、少し離れた場所に空間を切り裂くようにクロノスの扉が現れ扉がうっすらと開く。
「にゃふっふっ……嘘つきはクッサいうんこの刑!」
「うんこ踏んでる。ププッ」
薄っすら開いたクロノスの扉からケット・シーとリックが顔をのぞかせ、マティの様子を見て笑っていた。
「コラッ!」
マティが怒りに怒鳴るとクロノスの扉がバタンと閉まり消える。残されたマティの怒りは更に募り、興奮して髪の毛が鬣のように逆立つ。
「あっ、うそ! あ゛ぁ~もう……」
カシャリと留め金が外れたお気に入りのバレッタが馬糞の上に落下して突き刺さり、踏んだり蹴ったりの仕打ちに肩を落とすしかなかった。
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