第14話

魔法工学部がある南塔の薬剤学科が授業をする教室前で授業を早々に終わらせて移動してきたマティは今か今かとナッツの蜂蜜炒めの袋ろポケットに忍ばせてリックの出待ちをしていた。


(早く出てこないかな。鼻がムズ痒い)


 様々な薬草やらを組み合わせて実験などを行っているので、南塔は異臭が漂っている。もちろん嗅覚が優れている種族に限って感じる臭いであって薬剤の臭いや効能が外に漏れるようこと基本的にはない。ハンカチで鼻を押さえて時計を見ていると、教室のドアが開く音がして視線を向ける。出てきた子達はマティの存在に驚きながら、そそくさと前を通り過ぎていく。少しすると食堂で会ったゲド達の姿を見つけて、軽く手を振ると嫌そうに顔を歪めてマティに近付いてくる。


「まだ、何か用事があるのかよ?!」


「君には用事ないよ。リックに会いに来たの」


「そうかよ! あいつはまた点数稼ぎに後片付けしてる」


 年上に対する言葉遣いがなってないのはこの際、気にすることなく目標を捕捉することが優先だ。食堂の時のように油断するとすぐにいなくなってしまう。


「ありがとう!」


 マティはゲドに御礼を言って教室に向かい、ドアから中の様子を伺うと確かに言っていたようにリックが実験の後片付けをしているのだが、なにか様子がおかしい。


(なんか袋に集めてる?)


 教師の目を盗み、実験で残った薬草を紙袋にいそいそと詰めていた。残った材料は危険なものもあるので、すべて回収されるはずなのだがリックは状態の様さそうな物だけを選んで薬草を詰め終えポケットにしまうと、何事もなかったように教師に声を掛ける。


「先生、残った材料はどうしますか?」


「先生やっとくからバーレスク君は鍋をこっちに集めといてくれる? 重くないかな?」


「はい、大丈夫です」


 素直な様子で頷くと小さな体で各テーブルにある大きな鍋を一生懸命に運び始めたのだが、見ているとフラフラと危なっかしい。マティが思わず手を貸そうと声を掛けようとしたが、教師が先に声を掛けて止めた。


「小物は片付けてくれたし、大きいのは重いからバーレスク君にはちょっと無理かな? あとは先生やります。お手伝いありがとう」


手伝いが出来ずに、しょんぼりとした様子のリックの頭を教師が撫でて戻っていいことを告げられると、教師に背を向けてそそくさと教室のドアに向かうリックが舌を出すのを見逃さなかった。


(うわぁ……ずる賢い)


 廊下に出てきたリックはマティの存在に他の生徒と同じように一瞬、驚くがすぐにクロノスの扉がある方へ歩き出す。


「リック・バーレスク君」


 マティが通り過ぎていくリックを呼び止めると、無言で振り返りマティを凝視する。マティはにこにこと笑顔でリックに近づいてナッツの蜂蜜炒めの袋を差し出しながら話す。


「授業お疲れ様。良かったらこれどうぞ、ちょっとだけ話をしたいんだけど……」


 リックは無言でマティを怪訝な顔でジッと見つめ、ナッツの蜂蜜炒めには目もくれず踵を返し歩き出す。

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