第8話
食堂に戻るとまだ食べていない昼食にランプフィッシュのハーブ焼きと、奇跡的に3袋だけ残っていたナッツの蜂蜜炒めを買い、トレーにのせてリックの情報を集めようと食堂内を見回して先ほどのトカゲ少年のゲドの姿を探す。食堂も観察してみると大体、学年や寮で固まっていることが多いので低学年が多い周辺の席を見ると、ゲドとその仲間が一つのテーブルで食事をしているのを見つけて、そっと近づく。
「ここ、空いてるでしょう? 一緒していいかな?」
「なっ、なんだよお前!? まだ、なにかあるのかよ!?」
「お前じゃなくてマティ。騎士道学部の7学年よ。ちょっと話をしたいだけ」
ゲド達は顔を見合わせて空いた席に腰を落ち着かせてしまったマティの対応をどうしようかと困っている様子だったがゲドが渋々マティに頷いて見せる。
「さっきのリック・バーレスクのことについて教えて欲しいんだよね」
「リックの何を聞きたいの? あいつは娼館の息子で性格が悪いスケベな奴だ!!」
マティが水を向ければ、リックのことを好く思っていないゲド達から簡単に情報がポンポン飛び出してくる。中にはどうでもいいような愚痴ともいえる情報が含まれていたが、マティは忍耐強くウンウンと頷いて真剣に話を聞く。
「そういえばリックの奴、寮の部屋で怪しげな実験してるって……」
「実験? なにか作ったりとかしてるのかな?」
やっと知りたい情報がゲドの取り巻きの一人から出てきたのですかさず質問してみると、少年は他の子と顔を見合わせて少し緊張した様子で答える。
「何を作ってるのか知らないけど、この間、先生に実験の許可証をもらっていたのを見たんです……」
「ふんっ! あいつはそうやって先生からの点数を稼いでるんだ!」
仲間の話にゲドがテーブルを殴り怒ったように文句を言いだす。どうやらゲドが一方的に難癖をつけているようだが、ゲドなりになにか気に入らない理由があるようだ。
「先生から気に入られてるんだ? その代わりに、先生の手伝いとかよくやらされてるんじゃない?」
「しらね。休憩になるとすぐ居なくなるし、授業以外で見ることはない。あいつはいつも裏でなんかコソコソやってんだよ!」
怒りがぶり返したというか、どうにも短気なゲドはついに立ち上がり食べ終わった空の食器の乗るトレーを持って去っていく。周りの子達も慌てたようにトレーを持ってゲドの後を追っていく背に、彼らの次の授業予定をしっかりと聞き見送った。
(ゲドって子はよっぽどリックのことが気に入らないのね。さっきの喧嘩の様子からは、リックの方はゲドを気にも留めてない感じだったけど)
なんとなくだがリックが周囲とどういった関係性を気付いているかが分かりマティはニヤリと一人笑みを作りゆっくりとランプフィッシュのハーブ焼きを口に運ぶ。取り敢えずどこでリックと会えるか、どんな人物かが分かったのは大いに収穫だろう。
「たまにはサッパリ系のランチもいいかも! 美味しい」
上機嫌で残りのランチを一人で食べていると、左手をビタビタと舐められていることに気付いて箸を止める。ジッと左手近くのテーブルを見ていると、緑っぽい生き物が姿を現す。
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