第7話

「大人数で一人を囲むなんて格好悪いことしない!」


「うるさい! 放せよ! 暴力反対!」


「そうだ! ゲドの尻尾から手を放せ! 暴力反対だ!」


 自分の行動も省みずにトカゲの少年然りゲドの怒声に合わせて、取り巻きの4人もマティに対して喚き散らす。少年達の声に、廊下を歩く生徒たちが集まりだした。途中から見物人となった者からはマティが下級生をいじめているのではないかと囁く声が聞こえる。マティはゲドの尻尾から手を放し睨みつける。


「君がやっていたのは暴力じゃないの?」


「お前に関係ないだろ! なんだよお前!」


 ゲドは解放された尻尾を守るように抱え込み、マティに食って掛かる。ゲドの後ろで取り巻きの少年たちもやんや文句を吐き、反省する気はないようだ。


「寮長に報告される前にその子にちゃんと謝りなさい!」


 腰に手を当て仁王立ちをしながら、つい今ほどいじめられていた少年の居た場所を見ると少年の姿がない。


「あれ? どこ行っちゃった?」


「リックの奴また逃げやがったな! クソッ!」


「あの子、リック・バーレスク?!」


 予想通りだったが、まさか目の前で取り逃がすという予想外の展開に焦りを滲ませる。マティは周囲に目を凝らし紫の髪をした小さな男の子を探す。


(あっ、いた!)


 ゲドとマティを見ていた野次馬をかき分けてクロノスの扉前でケット・シーと話しているリックを追いかけるが、昼時の食堂前の廊下はランチをしにきた生徒でごった返していて、思うように進めない。やっとクロノスの扉前に着いた時にはリックの姿はもう消えていた。


「もう! 見つけたのに……」


 がっくりと肩を落とすが、クロノスの扉の脇にケット・シーの姿に目を留めてニッコリと笑顔を作ってから近付き腰を屈めて尋ねる。


「ねえ、今ここを通った紫の髪をした男の子と同じ場所に行きたいんだけど」


 ケット・シーは口をもごもごさせながらマティを見上げて、尻尾をゆらゆらと揺らして小首を傾げて答える。


「し~らニャイ」


「いま話してた子だよ? 行き先分かるでしょう?」


マティは引き攣った笑顔のまま食い下がるが、ケット・シーは前足で顔を洗いはじめ面倒臭そうにマティを見る。


「話してたのは交代したマロンだニャ。人の後をつけるのはストーカーで変態だから通報ニャ」


「ちょっ、ちょっと! 私はストーカーでも変態でもないよ。その子、喧嘩してたから怪我してないか心配だったの!」


「ふ~ん。大丈夫だったと思うニャ。もう、忙しいからじゃ~ま~」


 ケット・シーはマティを追い払うように尻尾で脚を叩きながら、小さな袋を取り出して飴玉の様なものを出すと口にポイっと入れ、満足そうな顔をして仕事に戻る。確かにマティのせいでクロノスの扉を使いたい子が後ろに控えているのに気付き、仕方なくその場は引き下がり、ターゲットを変えることにした。

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